この本は、タイトルが示すょうに1907年足尾銅山暴動についての過程と分析が主要テーマとなっている。しかし副題が〈鉱山労働者の社会史〉とあるように、明治維新以降の鉱山がどう発展していったのかについて、当時わが国の銅鉱山で突出した発展をとげた足尾銅山について、鉱床の開発、単に鉱山技術の革新にとどまらず、広く産業技術を選択、採用したこと。同時に労働力の充足など、大きな課題を抱えてきた足尾銅山の近代化の歩みをつかんで、まとめ上げていることである。
著者の専攻は、労働問題であり、本書の祖型は30年前発表されたものであるが、今日までの過程のなかで、著者もいうように、賃金水準変動の主要因は労働力の需給関係の変化であり、それには労働力の質的・量的変化を問題にせざるを得ず、そのためには鉱業技術の展開過程の追究が不可欠……内容的には鉱業技術、とりわけ製錬技術の歴史にかなりの筆をさいている、のが特徴である。
すなわち、労働関係の変化を追究する中で技術の展開が大きな因子となったこと。それを追究することで、これまでの技術史が、とかく技術を受容し、こなしていく労働の変化を見逃していた傾向をつきやぶる試みが行われ、それが成功したといえる。
特に明治の足尾銅山は、鉱山のみでなくわが国近代産業の先駆として活躍していたものであり、この本は、近代産業技術を研究する上で、新しい方法論と視点を与えるものといえよう。