二村一夫「インターネットと労働運動──世界と日本の労働組合サイト」


インターネットと労働運動
      ──世界と日本の労働組合サイト


                                   二 村  一夫



はじめに

 

 私はインターネットの専門家でもなければ、また労働運動の現場にいるわけでもなく、労働史の一研究者にすぎません。ですから、このようなテーマで報告する資格があるかどうかはなはだ疑問です。E-mailを始めたのもほんの3年前のことですし、インターネット・サーフィンの初体験もその直後の1995年秋のことでした。E-mailはアメリカにいる娘や外国の友人たちとのやりとりで、その便利さを実感しました。しかしインターネットの方は、モデムの速度がまだ遅かったこともあり、また内容のあるサイトも少なかったので、実用段階にはほど遠いと思いました。ただインターネットが巨大な可能性を秘めていることだけは確実でした。たとえば、当時、私たちは、大原社会問題研究所が長い時間と人手をかけて作り上げた《社会・労働関係文献データベース》を、できるだけ多くの方に利用していただきたいと考え、公衆電話回線を通じてのオンライン検索も実現していました。問題は、それを利用するには、ハードウエア・プロテクトがかかった高価な通信ソフトを使わなければならず、懸命に宣伝してもなかなか利用者は増えませんでした。この問題の解決策がインターネットにあることは明らだと思われました。そこで少しでも経験をつんでおこうとわが家の電話をISDNにかえ、プロバイダーとも契約して、ぼつぼつとインターネットを続けていました。
 ところが1996年の暮、インターネットの役割を再認識させられる出来事がありました。当時、私は労使関係の日韓比較をテーマに研究していたのですが、たまたま韓国で金泳三政権が与党議員だけを早朝に集め、単独採決で労働関係諸法の改悪を強行するという事件がおきました。これに対しては民主労総を中心に、かつては御用組合だった韓国労総も加わり、新年を挟んで一大ゼネストが実施されました。ところが日本の新聞は、同時に改定された国家安全企画部法には注目しましたが、労働関係法改定の具体的内容やそれに対する反対運動については、断片的にしか報道しませんでした。そこで私はインターネットでの情報収集を試みたところ、思いがけないほど多くのニュースを、しかも速報から分析的な文書まで、多様な情報を得ることが出来ました。欧米の新聞だけでなく、韓国の英字新聞、さらには民主労総に近い立場の人びとが英文でゼネスト情報を発信していることを発見したのです。さらに、かつて訪問したことのある民主労総のシンクタンクの韓国労働社会研究所が、労働関係法改定をめぐる運動について総括した英文の報告書をホームページに掲載していることも分かりました。しかし、こうした事実を、多くの日本人はあまり知らないようでした。そこで開設したばかりの大原社会問題研究所のホームページに《社会・労働関係リンク集》を作成し、そのトップに韓国の労働運動関連サイトの特集を掲載したのです。
 これがきっかけで、私はこの1年半余り、大原社会問題研究所のホームページ、とりわけ《社会・労働関係リンク集》の作成に力をいれてきました。リンク集を維持改善する作業はけっこう大変で、ほとんど毎日、長い日には10時間以上、短いときでも1時間近くは、内外の労働関係サイトを中心にインターネット・サーフィンをしてきました。たった1年半の経験で、「インターネットと労働運動」といったテーマでお話しするのは少々おこがましいのですが、WWWはまだ草創期ですし、日本では外国の労働運動サイトについて良く知られていないので、このあたりで世界と日本の労働運動サイトの現状を確かめ、問題点を明らかにしておく必要があろうと、この報告を思い立った次第です。




1 労働運動とインターネットの関係史

レビンソンの先見性

 まず最初に、労働運動とインターネットの関連の歴史、つまり労働運動がインターネットをどのように利用してきたかについて、お話ししたいと思います。なお、ここでお話しすることの大部分は、エリック・リーの『労働運動とインターネット』(Eric Lee The Labour Movement and the Internet)で学んだことです。この本については、『大原社会問題研究所雑誌』の9月号に、やや詳しい紹介文を書きましたので、それをご参照ください。
 同書によると、労働組合運動の指導者がインターネットの重要性に気づいたのは、かなり早い時期だったようです。それは今から26年も前、つまりインターネットについての研究がアメリカ国防総省のプロジェクトとして始まった1969年から僅かに3年後の話でした。まだインターネット計画そのものが「国家機密」で、部外者には知る由もなかった頃のことです。国際化学労連のチャールス・レビンソン(Charles Levinson)が、その著書International Trade Unionism(George Allen & Unwin, London, 1972) A A J g- eg o I A e e D e A a ‘ E e e A e h I H e d o nc E A ‘ e eO E eI n E A fc eI d A d o nE gI E N } E E I A e A I ÷ Y o E A Y E A fA a A J g- O A x gu A hN a A ‘ A fc d E s nA o E U d f [ ^ x [ X n a E A e a d } | A I g n C g A e| A E o a o E e ` E E A N - } A a K v A e A _ ÷ A ‘ A ‘ I A E B a A A a A } e I fP E nA h\ a A E A _ ÷ A ‘ E E E C A i eI gI E v na A E A fn N 3 e i P A I E c A I A E a B

 実際に労働運動に役立たせるためのコンピュータ・ネットワークの構築計画が提案されたのは1981年のことです。ノルウェーのクリステン・ニュゴール(Kristen Nygaard)が、国際自由労連の機関誌に、西側諸国の労働組合の協力による国際労働運動データベースの構築を提唱したのです。その拠点となることを期待されていたのは、フランスの「世界マイクロ・コンピュータ科学および人的資源センター」でした。しかし、結局、この構想は実現しませんでした。失敗の理由は、時期尚早というだけでなく、欧米の労働組合が、一般に新技術を敵視する、その保守性にあったと見られます。




カナダ労働組合の実験

 しかし、このニュゴールの提唱に先だって、労働運動でインターネットを活用した事例が生まれていました。もっとも、それは地球規模のネットワークではなく、地域的な一組合内のネットワークでした。カナダ太平洋岸のブリティッシュ=コロンビア州教員連盟(British Columbia Teachers' Federation=BCTF)が、1981年、当時、実用化されたばかりのBBS(bulletin board system=電子掲示板システム=パソコン通信網)を執行委員11人全員のオフィスに導入したのでした。このBCTFの情報網で使われた端末は、パソコンではなく専用のハードウエアで、ディスプレーはなくプリンターに出力される仕組みでした。情報は電話会社のパケット通信網を介して送られ、変調復調には音響カプラーが使われました。転送速度は300bpsで、今の最高速モデムの200分の1程度です。組合長のラリー・クーン(Larry Kuehn)は、オルグの旅にその端末機を持ち歩き、日常的に執行委員全員と連絡をとりあいました。端末機は、飛行機の座席の下にかろうじて収まるほどの大きさでしたが、とにかく「ポータブル」だったのです。おかげで、彼は、旅先での記者会見でも、執行委員会の承認をえた上で、新聞発表をすることができたといいます。

 BCTFが、他の労働組合に先がけてこの電子情報網システムを導入した背景には、この組合の支部が、過疎地をふくめた広大な地域に散在していたからでした。カナダは世界で2番目に広い国で、国内の時差が6時間もあります。BCTFの組織範囲であるブリティッシュ=コロンビア州は日本の2倍半もありますが、そこに4万2,000人の組合員が散在していたのです。同州で最大の学区はイギリスと同じ面積なのに、そこで働く組合員はわずか20人でした。何より、月1回の会議に、執行委員全員が本部のあるヴァンクーヴァーに集まるだけでも容易ではなく、費用もかかりました。また、組合員が文書の読み書きに習熟し、新技術にも抵抗感をもたない教員であるのも、成果をあげえた理由のひとつでした。さらに言えば、それまで組合と友好関係にあった州政府が1975年の選挙でやぶれ、以後1991年まで州の実権がBCTFを敵視する陣営によって握られていたことも、組合がこの新たなシステムの導入に踏み切った一因でした。BCTFは2年間の成果を高く評価し、1983年には端末機を76の支部すべてに設置しました。同年、BCTFは、組合の歴史ではじめて全州規模のストライキを実施したのですが、この通信網のおかげで、組合はつぎつぎと新たな情報をピケットラインに立っていた一般組合員に伝えることができたのでした。この一種のメーリングリスト・システムは、1990年秋まで9年間使い続けられ、新たに誕生したカナダ全体の運動ネットワークであるSolinetに引き継がれました。このように、労働組合に不利な諸条件をオンライン情報通信網によって克服したことが、カナダを労働運動におけるインターネット利用の最先進国としたのです。

 ローカルなネットワークでなく、全国的な労働運動情報網を世界で最初につくったのもカナダです。その中心となったのが、カナダ公務員組合(Canadian Union of Public Employees=CUPE)のベランガー(Marc Belanger)で、彼は1980年代の半ばに、大学教授や専門家の援助をえて、Solinet(Solidarity Network=連帯ネット)の名称をもつ電子会議システムを発足させたのでした。



労働組合とパソコン通信

 このように、WWWに先だって労働組合運動の有力な武器となったのは、1980年代に始まったBBS(パソコン通信)でした。もっとも、BBSは、ご承知のように、労働組合運動の武器としてより、環境、平和、人権擁護などを課題とする市民運動の武器として注目され、アメリカをはじめ世界各国で発達してきました。有名なアメリカのIGC(Institute for Global Communications)をはじめ、世界中の進歩的なインターネット・プロバイダーの集まりであるThe Association for Progressive Communications(APC)の加盟組織は、いずれも平和運動、環境問題、人権擁護などをテーマとする草の根の運動体から、大きな力をもつ組織へと発展したものです。
もちろん、労働組合の活動家のなかにも、個人的にBBSを運営する人びとが現れました。1986年に発足したニューヨーク市のアメリカ音楽家連盟のBBS、1988年発足の国際電気工組合第1220支部(シカゴ)のBBSなどです。さらに、公務や情報関連労組を中心に、5つの全国組合が電子掲示板システムを開設しました。同様な企ては、世界の各地で、始まっており、1985年暮にはオーストラリアのニューサウスウエールズ州労働組合会議がレーバーネットを開設しています。
 なお、こうした地域的なBBSや特定組合のBBSの他に、アメリカには2つのレーバーネット(LaborNet)があります。その1つは、AFL-CIOが、商業ネットのCompuserveを使って設けた電子談話室(フォーラム)のLaborNETです。もう1つは、市民運動ネットの中心であるIGCの一部門としてのLaborNetです。発足はIGCのレーバーネットが1990年、AFL-CIOのLabor-NETが1992年です。
 AFL-CIOのフォーラムには、ライブラリー、オンラインの討論グループ、リアルタイムでお喋りができるchatrooms、それに運営者からの連絡などが伝えられる掲示板の4つです。この構成は、日本のNiftyserveとほぼ同様ですが、もちろんそれは、ニフティがコンピュサーブをモデルにして作られたから、当然のことでしょう。なお、ライブラリーでは、AFL-CIOが発行した各種文書が手に入り、参加者の間でもっとも評価が高いという。また、chatroomsでは、時として著名人を参加させ討論がおこなわれています。AFL-CIO傘下の全国組合のなかには、LaborNetに組合として参加し、それぞれ独自のフォーラムや図書室、談話室を設けているものがあります。問題は、コンピュサーブの会員でないとこうしたサービスが受けられないことで、他の商業ネットワークやインターネットの利用者などはアクセスできません。コンピュサーブは、月10ドルで基本サービスが受けられますが、LaborNETに参加するには、その他に月3ドル必要です。しかし、費用面ではAFLのほうがIGCより安く、さらにコンピュサーブの他のサービスが受けられる点も考慮すると、その差はさらに大きいとのことです。しかし、IGCのLaborNetには産業別フォーラムのほか、アジア、ラテンアメリカ、ロシアなど地域別の国際労働問題、民営化問題などテーマ別の多様なフォーラムがあり、英語だけでなくスペイン語、ポルトガル語のフォーラムもあります。その意味で、LaborNet@IGCは、AFL-CIOのLaborNETよりはるかに国際的で、文字どおりグローバルな交流の場を提供しているのです。

 以上2つのフォーラムは誰でも参加しうるものですが、このほかにも、一部の組合は、参加資格を組合員に限定したフォーラムを設けています。たとえば、国際電気工組合は、コンピュサーブのLaborNETに独自のフォーラムを設けると同時に、アメリカオンラインにも談話室を設けています。また、全国航空管制官組合は、会員数が55,000人という小規模な商業ネットワークを使って談話室を設けています。会費は安く、組合員約300人が参加しているとのことです。





日本のレーバーネット 

 では、日本の労働運動は、インターネットをどのように利用してきたでしょうか。詳しい調査をしたわけではないので、あるいは間違っているかもしれませんが、日本では、まだ本格的なレーバーネットは存在していないようです。もっとも、レーバーネットに近いものがないわけではありません。たとえば、商用パソコン通信のニフティサーブの「市民運動・生き活きネット(FSHIMIN)」の一部として設けられている《労働組合はどこ?〔労働運動、相談と交流〕》の会議室は、レーバーネットのひとつと言えるでしょう。この会議室は、1996年5月1日に発足していますから、すでに2年余の歴史があります。ただ、この会議室の参加者はそれほど多くはなく、これまで実際に発言した人は100人程度、その発言の数も2年間でまだ1000に達していません。正確にいえば、98年7月18日現在で941です。なお、この会議室の前身は、95年12月に、それまでの《人権会議室》を拡大して発足した《人権・労働会議室》です。
 ニフティの「労働運動会議室」の他にも、インターネットのホームページ上で、メーリングリストシステムを設けているサイトが2つあります。ひとつは、インターネット上のバーチャル組織「労働組合電脳部」で、メーリングリストの会員数は100人程度のようです。もうひとつ、全労連系の通信産業労組が主催するTEN-NETもメーリングリストを設けています。そのほか、労働組合のホームページのなかには、掲示板を設け、訪問者に自由な書き込みを認めているものがかなりあります。ただし、一部を除いて、参加者はあまり多くはないようですが。



最初の労働組合ホームページは

 インターネットが一種のブームになったのは、1993年にWWWが発足してからです。同年6月には130のサーバーが接続されていたに過ぎませんが、1994年末には12,000の、1995年末には約4万のサーバーがWWWにつながりました。
 では、そうしたなかで、労働運動関連の最初のウェッブサイトはどこでしょうか。エリック・リーもこれは確認できなかったようで、はっきりとは書いていません。私自身が直接見たホームページのなかで、時期的にもっとも早く生まれているのは、1994年11月、『サンフランシスコ・クロニクル』と『サンフランシスコ・エグザミナー』という2つの新聞社のストの際に開設された『サンフランシスコ・フリー・プレス』と題するサイトです。これはWWW上の最初のオンライン日刊紙でもあるようです。
 1995年になると、世界各地で続々と労働組合サイトが開設されています。リーによると、オーストラリア労働組合会議(ACTU)のホームページは、もっとも早い時期のものだそうですが、日付がはっきりしません(前掲書 p.121)。リーの本で、開設日付が入っているのは、イギリス最大の組合であるUNISON(公務員組合)のホームページで、1995年3月22日のことだそうです。また、アメリカの全国レベルの労働組合では、1995年6月開設のSheet Metal労働者組合のウエッブサイトが、最も早く開設されています。

 日本最初の労働組合ホームページはどこか、いずれきちんと調べなくてはと思いながらまだ手を付けていませんので確信はありませんが、ソニー労働組合のホームページのファイル情報をみると1995年4月、6月、8月に作成されたことが記されています。ほかの労働組合サイトで1995年以前に作成されたファイルは見あたりませんから、おそらくソニー労働組合のサイトが日本最初の労働組合ホームページであろうと推測しています。

 1996年になると、日本も含め、労働組合サイトの開設は相次ぎます。おそらくWindows95が登場し、インターネットが急速に普及したからでしょう。労働組合国際組織で最初にホームページを開設したのは国際運輸労連(ITF)だそうですが、国際自由労連も1996年6月にホームページを開設しています。
 日本の労働組合サイトでは、1996年1月にトヨタ労働組合、2月日本航空客室乗務員組合、3月全電通福岡、4月自治労(UBC)、5月に明治製菓労働組合などがホームページを開いています。この年の末までには少なくとも20前後の労働組合ホームページが生まれました。97年、98年と労働組合のホームページは加速度的に増加し、後で詳しく見ますが、1998年7月21日現在、全国で256の労働組合サイトの存在を確認しています。なお、ナショナルセンターのホームページについてみると、全労連が1996年9月、連合が1997年8月に開設しています。



2 労働組合サイトの現状

  労働組合サイト数の推計

 次に、現在、世界中で労働組合のホームページがどれほどあるか見ておきたいと思います。これを調べるのに、Yahooなどのサーチエンジンはあまり役立ちません。労働組合で検索してみても、ごく一部しか出てこないからです。まして活字本のインターネット・イエローページの類はまったく役にたちません。いちばん手がかりとなるのは、リンク集です。現在インターネット上には、いくつもの労働運動関連リンク集がありますが、そのうち主だったものはエリック・リーが作成しているリンク集のリンク集(Global Labour Directory of Directories)に収録されています。もっとも残念ながら英語のリンク集だけで、わが研究所のリンク集は入っていません。これによると、最大の労働組合リンク集は、イギリスのCyber Picket Lineで、今年の4月現在で1485の労働組合サイトを収録しています。2番目に大きな労働組合リンク集はカナダのオンタリオの中学高校教員組合連盟(Ontario Secondary School Teachers' Federation)が作成しているもので、採録数は623です。なお、Cyber Picket Lineにはカナダの労働組合サイトが182掲載されていますが、オンタリオ教員組合のリンク集に収録されている自国の労働関連サイトは70だけです。これだけでも、サイバー・ピケットラインが、いかによく労働組合サイトを集めているか分かります。このCyber Picket Lineは英国・ウエールズのカーディフに住んでいるスティーヴ・ディヴィーズが個人的に作成しているものです。作成者のディヴィーズは、大学の兼任講師で、奥さんが労働組合の専従として活動しているそうです。
 もちろん、このように包括的なリンク集でも、世界の労働組合サイトを完全に網羅しているわけではありません。そのことは、日本の労働組合サイトでは、連合と全労連、それにIMF-JCやITF東京事務所など20しか掲載していないことでも明瞭です。ご存知だと思いますが、私どものリンク集では、これよりはるかに多い256の日本の労働組合サイトを収録しています。また、オンタリオ教員組合のリンク集には、サイバー・ピケットラインにないカナダの労働関連サイトが18あります。もっとも、うち2つは労働組合サイトではないので、その差は16です。また、カナダの公務員労組(Canadian Union of Public Employees=CUPE)のホームページには、傘下の地域組織や支部のホームページを47リンクしていますが、サイバー・ピケットラインのCUPE関連のURLは29だけです。他方、サイバー・ピケットラインにあって、CUPEのリストにはないホームページが3つあります。つまりCUPE関連サイトは合計50あるのに、サイバー・ピケットラインでは29ですから、21洩れているわけです。このうち1つはオンタリオ教員組合のリンク集と重複していますから、サイバー・ピケットラインで洩れているカナダの労働組合ホームページは16+20=36ということになります。
 このほか、韓国についても、サイバー・ピケットラインは9つのホームページを収録しているだけです。しかし、私が7月21日現在で確認している韓国の労働組合サイトは19です。

 以上のような確認できた数値をもとに、こころみに作成してみたのが、第1表の「労働組合ホームページ国別数」です。国際組織をあわせると1,769の労働組合サイトが存在します。また労働組合ホームページがある国の数は46です。なお、ホームページの密度を示す参考として雇用者数の100万分比を出してみました。なお、月例研究会での報告の際、雇用者数は、手許にある資料だけに頼ったため、年次的にもばらばらで、一部の国については雇用者数でなく就業者数を使いました。しかし、本稿は、報告後にILOのBulletin of Labour Statisticsおよび『国際労働経済統計年鑑』によって訂正した結果によっています。
 もちろん、ホームページ数そのものは、すでにお話ししたように、私が現在種々のリンク集などを参照して調べたものにすぎません。Cyber Picket Lineは、確かに良く集めてはいますが、すでに見たように、日本、カナダ、韓国だけで280も洩れています。他の国なども良く調べてみれば、このほかにも100から200は洩れているだろうと推測されます。ただ、その数は、多くても300を越えることはないだろうと思われます。本当は、労働組合サイトの数がもっとも多く、したがって脱落数も少なくないと予想されるアメリカについて、他のリンク集とつき合わせてみる作業をしておくべきだったと思います。そうすれば、誤差の範囲をもう少し狭めることができたでしょう。しかし今回は、そうした作業をする時間がありませんでした。
 ただ、日本の場合のような多くの脱落は、他の国にはないと思われます。インターネットの普及度が高く絶対数が多いのに、英語圏の人びとにとって言葉の壁が高いのは日本、それに次ぐのは韓国でしょう。

 以上から、私は、現在、世界中には2,000前後の労働組合サイトがあると推定しています。もちろん、この他にも、労働問題に関する各種のホームページがありますが、国別比較のために、今回は労働組合だけにしました。





国別労働組合サイト数

 さて、労働組合ホームページの国別数の集計手続きと、その問題点に関する言い訳はここまでにして、第1表をご覧ください。
 労働組合サイトの絶対数では、もちろんアメリカがトップですが、日本はそれに次いで世界2位です。日本がこれほど上位にあるのはちょっと予想外ですが、労働組合サイトの国別順位は、インターネット利用者数の国別順位とほぼ同様の傾向を示しています第2表「主要国のインターネット利用者数」参照)。 ただ、インターネットの利用者数では5位のドイツが、労働組合サイト数の順位では10位にいるのは、労働組合そのものが産業別に高度に組織化されているからなのか、あるいは捕捉洩れがあるためなのか、分かりません。おそらく2つの要因が重なっているのでしょう。アメリカ、日本、カナダ、イギリス、オーストラリアの上位5カ国だけで1,173の労働組合サイトがあり、全体の67.2%を占めています。インターネットにおける英語圏の優位が、ここでも明瞭です。
 第3表「労働組合ホームページ国別普及度」は、第1表を、絶対数でなく、普及度、つまり雇用者数との対比で算出した密度順に並べ替えたものです。上位10カ国を見ると、サンマリノ、ノルウェー、ルクセンブルグ、マルタ、カナダ、オーストラリア、スワジランド、スウェーデン、アイルランド、フィンランドの順になっています。雇用者数が1万5000人に満たないサンマリノ、20万人に満たないルクセンブルグ、マルタ、スワジランドを別にすると、北欧の密度の高さが、ついでカナダ、オーストラリア、アイルランドといった英語圏諸国の高さが目立ちます。



インターネット世界における労働運動の比重 

 ところで、全世界の労働組合ホームページの総数が約2,000というのは、インターネット全体の規模と比較すると、きわめて僅かな比率です。1年半も前の1997年1月現在の数ですが、世界のウエッブサイトの数は推計65万でした(web-growth-summary)。日本インターネット協会編『インターネット白書98』によれば、1998年1月現在、世界のホスト数は約3000万台、同2月現在でインターネット利用者数は1億1275万人だそうです。インターネット世界における労働組合ホームページは、きわめて小さな、微々たる存在でしかないのです。
 また、インターネットによる情報交換については、WWWよりもパソコン通信(BBS)の方が、質量ともに、ずっと重要だというのは、インターネットの達人たちの多くが指摘するところですが、そのBBSでも労働運動は弱体です。たとえば、全米でパソコン通信局は6万5000もあるというのに〔Eric Lee The Labour Movement and the Internet p.91〕、労働運動関連のBBSは20前後に過ぎません。つまり、労働運動関連のBBSは全体の3000分の1にも達していないのです。さらに言えば、市民運動のBBSからは、IGCのような有力な団体が生まれましたが、労働組合独自のプロバイダーといえるのは、私が知る限りでは、カナダのSolinetやイギリスのPOPTELの名をあげることができる程度です。日本の場合、労働運動関係のBBSがさらに弱体であることは、すでにお話ししたとおりで、250万人近い加入者がある最大のパソコン通信網ニフティにさえ、労働運動だけのフォーラムは存在せず、人権フォーラムの一部として辛うじて存在しているだけです。
 このように、企業はもちろん、一般の市民運動団体とくらべても、労働組合運動は、インターネット利用で立ち後れています。少なくとも、これまでのところ、大きく立ち後れてきたことは明瞭です。もちろん、これには理由があります。第1に、労働組合は、1世紀以上もの長い歴史をもつ組織です。その構成員の範囲は明確で、組織の仕組みや意思決定のための会合のあり方、あるいはさまざまな情報を伝え、運動への参加を呼びかける機関紙誌などの活字メディアをもっています。ですから、インターネットのような不特定多数を相手にする情報伝達手段の必要性を、あまり強く感じていないのだと思います。
 さらに、欧米の労働組合運動の母体となったクラフト・ユニオンの一貫した目標のひとつは、新技術の導入への反対でした。今なお、そうした傾向は強く残っています。新たな技術の導入は、長年かけて習得した熟練労働者の技能の価値を減らすおそれがあり、しかも組合員の雇用機会を減らす傾向をもっていますから、そうした方針も当然といえましょう。このように新技術一般に対して不信感をもつ組合指導部が、組合運動にコンピュータを導入せよと主張する人びとに、かならずしも好意的な反応を示さなかったことも、分からないではありません。

 もっとも、日本の場合は、そうした新技術の導入に反対するクラフト・ユニオニズムの伝統が弱い上に、終身雇用制の存在もありますから、労働組合が新技術の導入そのものに抵抗はしません。しかし、だからといって、すぐインターネットを労働運動に活用することに積極的になるわけではありません。ナショナルセンターや単産は別として、日本の労働組合の圧倒的多数を占める企業内組合の多くは、組織として、対外的・対社会的に発言する必要性を感じていないからです。
 さらに、世界の労働組合がインターネットやE-mailにそれほど積極的にならない大きな理由のひとつは、組合員の多くがコンピュータとは無縁の場で働いているからでしょう。労働組合運動は一般的にそうですが、とくに欧米では、伝統的にブルーカラーの運動でした。例外はもちろんありますが、ブルーカラー労働者の多くは、パソコンやe-mailとは馴染みのない場で働いています。そうした人びとを中心につくられている組織が、パソコン通信やインターネットに積極的にならないのは、やむを得ないことと言うべきでしょう。
 ブルーカラー労働者でなくとも、多くの人びとは、長年なじんできた生活習慣や労働慣行をすぐに変えようとはしません。たとえば日本では、E-mailの使用が、アメリカなどと比べ、大きく遅れました。たぶん2〜3年は遅れていると思います。今日ご出席くださっているゴードン教授は、日本でE-mailの発達が大きく遅れたのは、ファクシミリが家庭にまで普及したからではないか、とのご意見をおもちです。おそらく、それもひとつの理由でしょうが、私は、欧米ではタイプライター文化が長い歴史をもち、多くの人がキーボードに馴染んでいるのに対し、日本でワープロを使うようになったのは、たかだかこの10年のことだという違いが大きいのではないかと思います。万年筆でなければ自分の考えは的確に表現できないという「キーボードアレルギー」をもつ人は、いまだに少なくありません。

 理由はともあれ、日本でE-mailを使う人はまだまだごく少数です。私は、いま会員約1,000人の学会のホームページを担当しており、ホームページを通じ、また業績リストの作成などの際にE-mailアドレスの記入を求めていますが、いま分かっている数は150前後です。私が知らないだけで、実際はE-mailを使っておられる方がこの他にもおられるでしょうが、その数はせいぜい50〜100人程度ではないかと推測しています。一方、E-mailアドレスはもっていても、ほとんど使っていない方も少なくないようです。仕事でパソコンを使用する機会も多く、インターネット等による情報収集の必要性も感じているであろう大学教員中心の学会でさえこうですから、一般の労働者の場合は推して知るべしです。そうした点を考えれば、労働組合がインターネット利用にそれほど積極的でないのも当然でしょう。
 これに対し、市民運動の場合は大きく違います。もともと組織的な基盤が弱く、社会的に訴えたい問題を抱えていても、それを伝える自前のメディアをもたず、発言の機会が限られている場合が少なくありません。そうした市民運動家にとって、BBS、E-mail、あるいはホームページは、きわめて魅力的な情報伝達手段です。共通の問題関心をもちながら、ばらばらに暮らしており、日常的に接触する機会のない人びとが、自由で、またあまり本業の妨げにもならない形での緩やかな連帯が可能で、しかもコストが相対的に低いからです。パソコンは安いものではありませんが、手が出ないほど高価なものではなく、インターネットは、社会的に訴えたい問題をもっている人なら、組織をもたない一個人でも発信可能なツールです。しかも、その訴えの内容によっては、大企業、大組織と対等に渡り合うことが不可能ではありません。現に、私どものリンク集でも、企業内で差別されたり、セクハラを受けたりして裁判闘争をしている個人、争議団などのホームページがかなりの数にのぼっています。社会的に訴えたい問題をかかえているだけに、その説得力も、大組織のホームページをしのぐものが少なくありません。
 一方、労働組合は、毎日仕事で顔をあわせる人びとの集まりですから、会合を開くのも容易で、また機関紙誌を通じて情報を伝達する方が、組合員全員によく徹底します。ごく一部の組合員しかアクセスできないインターネットなどに金を使うことに、役員が積極的にならないのも、不思議ではありません。こうした運動の特質の差が、ごく最近まで、多くの労働運動家が市民運動家のようには、BBSの重要性、必要性を強く感じなかった背景にあると思います。そうした特質は、短期間では変化しませんから、BBS、E-mail、あるいはインターネットが、労働組合運動の情報伝達ルートの中心となるのは、かなり先のことであろうと思います。もっとも、研究機関や大学の労働組合などの場合は、いくらか事情は違うでしょうが。




日本の労働組合サイトの概況

 つぎは、日本の労働組合のウェッブサイトの現状です。第4表「日本の労働組合ホームページ産業別数」をご覧ください。すでにお話ししたように、1998年7月21日現在、256のサイトを確認しています。もっとも、このなかには、労働組合の公式サイトだけでなく、組合内の音楽サークルのホームページや、個人のホームページのなかに存在する労働組合ページも含まれていますから、他の国にくらべると、やや基準が甘いかもしれません。
 他方、解雇反対などで裁判闘争をおこしている個人や支援する会などの団体のホームページ、労働者生協など労働者福祉関係の団体は除いていますが、労働運動関連のウェッブサイトとしてはこうしたものも含めるべきでしょう。また、労働運動サイトとはいえないのですが、労働情報提供機関、研究機関のホームページがいくつかあります。このなかには内容的にすぐれたものもあり、ひろく労働関係サイトを考える場合には無視できません。ただ、先ほども述べたように、今回は、国際比較のために、とりあえず労働組合のホームページだけにしました。

〈産業別・業種別数、比率〉

 これは、おそらくどこの国でも共通すると思いますが、労働組合サイトの比率は、産業別・業種別で、かなりの違いがあります。
 数的にもっとも多いのは、サービス業の102で、全体の40%近い数です。ついで製造業、交通・運輸・通信、公務が35と同数で各13.7%、一般労働組合(ユニオン)が24、ナショナルセンターやその地域組織などの連合体が15、商業金融業がもっとも少なく10という結果になっています。ただし、サービス業に分類したなかには、医療や教育関係を中心にかなりの数の公務員組合があります。これらの国公立の学校や病院の組合などを公務に入れると87組合で、全体の3分の1を越える34.0%に達します。
 製造業の組合のホームページが、組合員数に比べきわめて少ないことは、先にも述べたように、コンピュータになじみのない組合員が多いこと、また組織として社会的な発言の必要性を強く感じていない組合が多いからでしょう。また、製造業のなかでも電機電子関連業種の組合が多いことも不思議ではありません。ただ、いささか予想外だったのは、組合員のコンピュータ・リタラシーは、他業種にくらべかなり高いと推測される金融が、絶対数だけでなく、組合員比率でも最低であることです。これは、労働組合そのものの力量の反映なのでしょうか? 銀行のように、金融再編のうねりの中で、賃金水準が他業種にくらべ高すぎるなどと、世論の袋叩きにあっている銀行の労働組合こそ、インターネットを通じて、一般社会に対しもっと主張したり、反論したいことがあるに相違ないと思うのですが、実際には証券で1組合、保険で1組合、銀行にいたってはゼロです。
 対組合員比率で高いのは、産業としてはサービス業です。もっとも国公立の学校教職員や医療関係の公務員を公務にまわすと、公務が最高になります。公務はもともと不特定多数の人びととの接点が多い上に、行政改革で組合員の労働条件や雇用にまで影響をうける分野ですから、インターネットで社会的に発言する必要性を痛感しているのでしょう。また、業務でコンピュータに接する機会も多いところから、ホームページを開設できるだけの人材が育っている点もあると思われます。業種では、予想通り大学の教職員組合が圧倒的に高い比率を示しています。これは組合員間でのパソコン使用の高さを考えれば、当然の結果でしょう。
 しかし、対組合員比率でみると、大学の教職員組合よりも、一般労働組合、昔風にいえば合同労働組合、今風でいえば「ユニオン」が大健闘しています。これは、ホームページが労働相談やオルグ活動の有力な手段となっていること、反面、組織されている組合員がきわめて少ないことの2つの要因からきたものでしょう。その他、もう少し細かく業種別にみて注目されるのは、航空関係の労働組合のホームページです。絶対数でも9とかなり多いだけでなく、内容も充実し、アクセス数もほかの労働組合サイトを大きく上回っています。


  〈組織レベル別〉

表にはしませんでしたが、組織レベル別の数を見ると、次のようになります。

 国際組織            2(国際運輸労連と国際コミュニケーション労連)
 ナショナルセンター      2(連合と全労連)
 全国産別組織        23(連合系12、全労連系4、その他7)
 協議会             4(IMF-JC、マスコミ文化情報労組会議、電算労、労働者供給事業関連労組協議会)
 職業別組織           3(音楽ユニオン、全国消防職員ネットワークの会、大学非常勤講師組合)
 連合・全労連の府県組織 11(連合5、全労連6)
 地域組織            3(三多摩労連、熊谷地区労働組合協議会、電機連合埼玉地協)
 全国組合内の諸組織    8(うち自治労4)
 以上小計           56

残りはちょうど20になりますが、これはいずれも単組、あるいは単組の支部です。

 

〈系列別ホームページ数〉
 なお、ナショナルセンターの系列別でみると、つぎの通りです。ただし、所属不明が少なくないので、これはかなり大雑把な数です。
 連合系    77
 全労連系  58
 全労協系  12
 その他    109





3 日本の労働組合ホームページの問題点

   最後に日本の労働組合ホームページの問題点を、他の国のナショナルセンターのサイトと比べて、考えたいと思います。すでに見たように、日本の労働組合サイトは数的には世界2位ですが、内容的にみると欧米の組合サイトにくらべ、やや見劣りがする、というのが私の印象です。もっとも、そのひとつの原因は、日本の労働組合サイトの発足が欧米などとくらべ1年は遅れている、まだ生成期にあるという点にあると思われます。実際、1年半にわたって個々のサイトを見ていると、この間に内容を大幅に改善したところが少なくありません。したがって、私のここでのコメントも、すぐに実態と合わなくなることは確実です。これはあくまでも1998年7月現在における観察に基づいた発言です。
 また当然のことながら、ホームページの構成・内容は制作者の意図によって異なります。どのような狙いで作るかは、人さまざまです。とくに、ホームページのデザインは制作者の美意識を強く反映しますし、美的感覚は人によって違いますから、私が良いと思うものが、他の方が良いと思う保証はありません。したがって、これから申し述べる点は、すべて私の「独断と偏見」によるものであることを、あらかじめお断りしておきたいと思います。

  画像の多用、更新頻度の低さ
 欧米の労組サイトにくらべ見劣りするなど、勝手なことを言いましたが、これはあくまでも全体的に言ってのことです。海外のサイトも良いものばかりではありませんし、日本にも充実したホームページが、いくつもあります。実のところ、この1年半余り日本の労働組合サイトを見てきて、日本の労働組合の多様性を再認識させられています。ただ、一般的傾向として、日本の労働組合のホームページ、とくに単産や大単組のホームページは、まだまだ改善の余地があると思います。
 一般に大組織のサイトは、画像やマークを多用し、あるいはフレームを使ったりして、トップページの見かけは実に綺麗に仕上がっているのですが、肝心の内容に乏しいものが少なくありません。あえて言えば、組合の案内パンフレットをそのままホームページにしたようなものが多いのです。おそらく、組合活動の一線で活動している人びとがホームページの制作にはほとんど関与せず、外部の専門家に一任している事例が多いのではないか、と推測されます。
 実のところ、今のインターネットの転送速度では、冒頭に大きな画像データがあると、すぐには中味が見えてきません。長い時間をかけて出終わった画面をみると、組合とは何の関係もない写真や、大きな組合のロゴと歓迎メッセージだけだったりします。たぶん、あまり単純な構成やデザインでは、ホームページ制作者のプロとしての美意識が許さないのでしょう。また、高い制作費をとるからには、素人には真似のできないような複雑な画面構成にせざるを得ないのでしょう。しかし、私のように気が短い者には、長い時間待たないと見えてこないサイトはとても我慢できません。
 それに、当然のことながら、外注で制作されたサイトは、あまり頻繁には更新されません。私が知っているある大学が初めてホームページを作った時に、担当者が制作者に出した注文は、「1年くらいはもつホームページをつくって欲しい」だったそうです。予算でホームページ制作費が一定額に決められている組織の一員としては、当然の発言だったのでしょう。しかし、ぜんぜん更新されないホームページでは、2度までは見に行っても、3度は行きません。大単組ホームページのなかにも、最初に制作されたまま、2年以上まったく内容が更新されていないものがあります。

 これからは、依頼者の側も制作者の側も、1回きりの「作ってしまえばそれまでよ」契約でなく、できれば週1回、せめて月に1回は新しい情報を追加するような年間契約システムを導入することを考えて欲しいと思います。より望ましいのは、イギリスTUCのホームページが取り入れているように、実際に運動の現場で本部スタッフが作成している情報を、直接、いつでも追加できるような仕組みでしょう。

階層が深すぎること

 ところで、ホームページのなかには、発信している情報量も多く、更新もされているのですが、目指す情報をすぐには探し出せないものがあります。ロゴやマーク中心のページが続き、肝心の情報を読むまでに、何回もマウスをクリックしなければならず、全貌がいっこうに見えてこないのです。おそらく画像の多用によってファイルが大きくなりすぎるのを防ぐためでしょうが、全体として階層を深くしすぎているサイトが少なくありません。ちょっと極端な例ですが、あるホームページは、テキストファイルをまったく使わず、文字情報も全部画像ファイルとして掲載し、それを一枚、一枚繰って見なければ、中味が分からない仕組みになっているものがあります。最後の情報ページに達するまでに6回も7回もクリックしなければなりません。もちろん、他のサイトとは違う個性的なホームページを作りたい、という制作者の意図は良く伝わってくるのですが。テキストだけのファイルなら、上の方から順序よく現れるので、前の方を読んでいる間に残りも出てきますから、かなり大きなファイルでも、それほど気になりません。しかし、画像ファイルは、転送が完全に終わらないと中味が分かりません。冒頭に大きな画像があると、時には数十秒もかかります。しかも、そうしてようやく見えた内容が、テキストなら瞬時に出る10行前後の文字だったりします。それでもまだ、中味があれば良いのですが、「工事中」のサインだけだったりすると、騙されたような気分になります。

 ここで、ホームページ制作の専門家の方々に、あえて一言いわせていただきたい。それは、トップページを画像や凝った背景で飾りたてること、マークやボタンを多用して階層を深くするのは、アダルトサイトなどには向いている手法でしょうが、ホームページ一般に適用しうる大原則ではない、と言うことです。それぞれのサイトの性格に応じた、もっと多様なホームページの構成やデザインを考えて欲しいと思います。ホームページは美しくなくても良い、と言っているのではありません。ただ、多くの人がインターネットに求めているのは、新鮮かつ良質な情報ではないか、と思うのです。
 また、どのホームページにも、そのサイトの全容が分かる詳細目次か、サイトマップをつけて欲しいと思います。情報量の多いメガサイトほど、こうした配慮が必要ではないでしょうか。
 もうひとつ言わせてもらえば、ホームページ制作者だけでなく、サーチエンジンやリンク集などでホームページのコメントを書いている人たちも、見栄えだけでなく、情報の内容や質を的確に判断し、評価する力を養って欲しいのです。自分でリンク集のコメントを書いているので、お前自身はどうだと言われると困るのですが。
 悪口はこの位にして、お手本にしてほしいサイトを紹介しておきます。それは、労働組合サイトではないのですが、〈労務安全情報センター〉のホームページです。テキスト中心で、しかも内容のある情報が簡潔に述べられ、しかも絶えず新鮮な内容が追加されています。ホームページ制作の専門家の方々には、こうしたサイトからもっと学んで欲しいと思います。


運動体のホームページのあり方

 外国の組合サイトと比べ、日本の労働組合サイトに見られるもうひとつの問題は、運動体のホームページらしくないことです。これはホームページだけの問題ではなく、労働組合運動そのものの性格、体質とかかわることですから、それほど簡単に改善しうることではないのかもしれません。とくに企業内組合の場合は、社会的に訴えるより、組合員相互の情報交換に主眼がおかれるのもやむを得ないと思います。しかし、組合内の情報交換なら、メーリングリストや談話室でもできます。不特定多数の人びとのアクセスを前提としているWWW上にホームページを設ける以上、そうした人びとに対する配慮をして、最低限、組合の自己紹介くらいはするのがマナーというか、常識でしょう。数は多くないのですが、まったく組合員限定のホームページも存在します。こうしたサイトに出会うと、狭い公道に商品を並べて通行の邪魔をしている商店のような印象を受けます。おそらく、PR的には逆効果でしょう。
 さすがに連合や全労連のサイトは、そんなことはありません。開設時には、大ナショナルセンターとしては、いささか貧弱だなと感じた連合のホームページも、最近では改善いちじるしく、発信内容も充実しつつあります。各種の調査報告書などは、PDFファイルやエクセルファイルでもダウンロード出来るようになっていますし、FMラジオなどで流している連合のコマーシャル・メッセージさえ聞くことができます。労働組合をつくろうという呼びかけもあり、労働相談にも力をいれ、それなりの努力が見られます。一方、全労連のホームページは、先発だっただけに、一時期は連合よりかなり充実しているという印象だったのですが、最近はいささかマンネリ気味です。英文のNewsletterで国際的に発信している点は評価できますが。
 しかし、連合にせよ全労連にせよ、アメリカのナショナルセンターであるAFL-CIOのサイトなどと比べると、どちらも運動体のホームページらしくない、と感じます。それは、なぜかと言えば、発信されている情報がもともと仲間うちの機関紙誌やニューズレターに掲載された記事そのままのものが多いからです。訪問者を説得して運動への参加を呼びかけ、行動に立ち上がらせようとしていないからです。もともと労働運動は労働者自身による運動なのですが、日本の労働組合ホームページには、仲間を増やそうとする意図があまり感じられません。単産のホームページも、全体的に同様の印象を受けます。
 日本の労働組合サイトで、比較的、運動体としての性格をみせているのは「労働相談」でしょう。労働相談は、それだけを専門にするホームページもあり、多くの組合サイトが労働相談に応じており、電話だけでなくE-mailでも相談を受け付けています。いわば「110番運動」のインターネット版です。これは、日本の労働組合サイトのひとつの特色で、リストラ時代とあって、どのサイトにもかなりのアクセスがあり、メールによる相談も予想以上とのことです〔注1〕。
 こうした労働組合による相談活動は、組織活動のきっかけになりますし、組合サイトの重要な機能のひとつであることは明らかです。ただ、いまさら言うまでもないことですが、労働運動は、労働者による労働者自身の運動であるわけで、ただ援助するだけでなく、アメリカの労働組合サイトのように、もっと人びとを説得し、行動に立ち上がらせる姿勢があってもよいのではないかと思うのです。


労働運動サイトの好例=AFL-CIOホームページ

 そこで、私が労働運動サイトの好例と考えている、アメリカのAFL-CIOのサイトについて簡単に紹介してみたいと思います。ここは単一のサイトというより、多様な性格のホームページの集合体で、いわば〈AFL-CIOホームページ団地〉です。なお、これと対照的な形をとっているのは、イギリス労働組合会議のホームページで、一大ビルディング形式です。どちらも、内容豊富な巨大サイトで、どうすれば訪問者が迷わずに目指す情報を得られるか、かなり工夫しており、組合サイトに限らず、巨大サイトを制作する人びとは、これらのホームページから、学ぶところが少なくないと思います。
 さて、AFL-CIOですが、入り口はToday's Unions(今日の労働組合)という短いファイルで、内容はWhat's New、つまり新着一覧です。そのトップにあるのはWork in Progressです。これは最近1週間のアメリカにおける労働組合運動に関するニュースをまとめたもので、地方支部などからも投稿できるようになっています。新着には、もちろん会長の演説や執行評議会声明、あるいは新聞発表などの公式文書も掲載されています。以上は、日本をふくめ多くの国のナショナルセンターのホームページに共通する「情報提供機能」といってよいでしょう。
 AFL-CIOのサイトが日本の労働組合のホームページと違うのは、訪問者に対し、その場で何らかの行動を起こさせるように働きかけるページが多いことです。反労働組合的な立場をとる企業の製品のボイコットリスト、反対に組合員が作っている自動車の車種の一覧を示して購入を勧めるDo buy listがその好例です。またYou Have a Voice (君の意見を言おう)では、連邦議会で個々の議員の経歴、議会での所属委員会などと同時に、その議員がどの法案にどのように投票し、AFL-CIOはそれをどう評価しているかなどを知ることができるデータベース(AFL-CIO Congressional Record)があります。ここには、議員のワシントンと地元の事務所の住所やE-mailアドレス、電話番号が記されており、その場でメールを出すよう勧めています。あるいは、Union Summer という、若者を対象にした労働運動や市民運動の活動家養成学校のホームページでは、毎夏、全米各地(プエルトリコなど一部は海外)で開かれている講座に、オンラインで申し込めるようになっています。同様のことは、専門の労働運動の組織者を養成するOrganizing Institute のページでもおこなわれています。あるいは、働く女性のページ、労働安全のページなどでは、さまざまなキャンペーン・グループ(たとえば Stop the Pain! campaign)への参加申し込み者を募り、名前や住所を登録し、情報や意見交換の手がかりにしています。さらに、経営者の信じがたいほど莫大な報酬に関するデータベースのホームページも、単に事実を知ることができるだけでなく、経営者の報酬の暴騰を抑えるために出来る選択肢をいくつも示し、さらに情報提供の呼びかけがなされ、オンラインで記入できるように仕組まれています。

 もちろん、アメリカと日本とでは運動の進め方も違いますし、単にAFL-CIOのサイトをそっくり真似すれば良いというものではないでしょう。ただ、日本のナショナルセンターは、もう少しインターネットを通じて運動を広げて行く姿勢をもち、いろいろ工夫すべきではないかと感じます。たとえば、労働時間短縮を一般的に呼びかけるだけでなく、個々の企業について、実際の労働時間や休日について、また残業料がいくら払われているかなどを調べ、これをデータベース化することは考えられないでしょうか。おそらく今、インターネットにもっとも頻繁にアクセスしているグループのひとつは、就職活動中の若者です。彼らの多くは、近い将来、労働組合員となる可能性をもっている人びとですから、彼らに向けて、企業ごとの実際の労働時間や労働条件に関する情報を提供することは、労働時間短縮に向け側面から圧力をかける意味あいがあると思われます。こうした活動を通じて、いくらかは組織率の低下をおさえる効果も期待できるのではないでしょうか。もちろん個々の企業別組合に、こうした活動を期待することは非現実的でしょうが、ナショナルセンターや単産なら、可能ではないでしょうか。
 また、同じ情報提供にしても、あるいは〈訴え〉や〈主張〉にしても、仲間うちの文書でなく、不特定多数の人びとのさまざまな疑問に答えうるものを、もっと増やして欲しいと思います。


国際性の欠如

 労働組合サイトに限らず、日本のホームページ全般にいえるのは、国際性の欠如でしょう。もちろん言葉の壁が大きいので、やむを得ない面はあるのですが、日本の労働組合サイトも、国際的な情報発信についてはまことに弱いと思います。私どもの研究所のリンク集には、日本国内の英語サイトだけのページがありますが、その数が少ないだけでなく、発信内容も簡単な案内パンフレット的なものにとどまっているものが大部分です。
 外国語で労働関係のニュースを発信しているのは、日本労働研究機構、全労連などごく一部のホームページにすぎません。もちろん外国語で、リアルタイムのニュースを発信することは、容易ではありません。言葉の壁の高さは、機械翻訳があるていど実用化されているヨーロッパ諸国語間の比ではないと感じます。
 ただ、最初にお話ししたように、言葉の壁という点では日本とまったく変わりがない韓国の労働組合は、海外に向けた情報発信については、日本の労働組合よりはるかに活発です。単に言葉の壁だけではない問題があることも、また確かです〔注2〕。
 さらに言えば、日本の労働関連のサイトは、自らの状況を国際的に発信する点で弱いだけでなく、世界の労働組合運動がとりあげている課題についても関心が低いように感じます。たとえば、世界の労働組合運動が課題としている、児童労働の廃止運動をとりあげている日本の労働組合サイトは、私が知る限りではほとんどありません(ちなみに、1998年7月にこの報告をした後で、新たに開設された日教組のホームページでは児童労働問題がとりあげられています)。なお、市民運動サイトのなかには、この問題を中心にしているホームページがあります。
 日本経済が世界の市場に深く組み込まれ、日本企業が世界各地に進出し大競争を展開しているだけに、日本の労働組合も海外への情報発信に無関心ではいられないのではないでしょうか。
 いずれにせよ、労働組合のインターネット利用はまだ始まったばかりです。改善の余地はいくらもありますし、直そうと思えば、すぐ手直しできるのもホームページの良いところです。また、お互いに智恵を出し合い、経験を交流し、学び合うのが容易なこともインターネットの利点です。英語圏の労働関係サイトのWebmaster たちの間では、自分たちのフォーラム(Labour Webmasters Forum)を作って、互いに交流しています。日本の場合は言葉の壁があるので、これに直接加わることには無理がありますが、代わりに日本語の「労働関連ホームページ管理者フォーラム」やメーリングリストをつくることは可能ではないでしょうか。

 


  〔注〕

1) 大森直史「インターネット(ホームページ〈お助けネット〉)によるキャンペーンと労働相談活動について」(『労働法律旬報』1420号、1997年11月下旬号)。このほか、『朝日新聞』1998年8月28日夕刊も参照。

2) 韓国の民主労総は、英語でゼネスト情報を発信しただけでなく、世界の人びとに支持を訴えた。また、1997年11月には、ソウルでインターネットと労働運動に関する国際シンポジウムを開催している。今年の11月にも、民主労総は、同様の会議を主催することを予告している。







〔1998.9.29掲載〕

紹介Eric Lee The Labour Movement and the Internet


 本稿は、1998年7月22日に、法政大学大原社会問題研究所の月例研究会において、「労働運動とインターネット」と題しておこなった報告の原稿を補正したものである。
初出は、『大原社会問題研究所雑誌』481号(1998年12月)



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