労働組合期成会
「労働世界に警告す」
吾人の親友労働世界は其初刊以来今日に至るまで我労働組合期成会の為めには言語に尽されざる程に尽力せられ、殆んど吾人の機関新聞の如く、我が弁護者となり宣言者となり又進撃者となりて吾人を補助せられたるは実に感謝に堪へざる所なり。然るに労働世界は往々激烈当るべからざる論鋒を以て我会員の働く所の工場を抗撃し、甚しきに至つて労働者の悪風を吹張し針小の事実を杵大にシャベリ立てゝ、以て労働者の感情を害し、又は工場内の裏面を白日に晒らして少しも延慮せず、為めに期成会々員は不自由の結果を蒙ること屡々なり。
抑も期成会は元来政社にあらず、純然たる経済的団体なり。然るに友人労働世界は社会主義だとか、政事運動の必要だとかサモ労働者を煽動せんとするものゝ如く、頻りに政事の現状を論評し、又稍もすれば抗撃の鉾を資本家に向け却て薄弱なる労働者を悪むに至らんとす。吾人は労働世界が労働者の為めを思ふ熱情心より出たる言語なるを信ずるも、期成会も亦労働世界の如く社会主義を以て宗教とし同盟罷工を以て労働運動の唯一の武器となす激烈なる団体と誤解さるゝの不幸に陥るの憂ひあり。労働世界が期成会に同情を寄せらるゝはよし、又吾人期成会の為めに気焔を吐かるゝ敢て反対せず。唯吾人が社会より誤解され、為めに組合の進歩を防害するが如き不幸に至らしめざる様に注意せられんことを望む。我組合員の働く工場の非を余りダシヌケに且つムキダシに抗撃せらるゝは甚だ困難する場合もあれば、注意を加へられんことを乞ふ。
然れども新橋辺の大工場が其二千有余の職工を奴隷の如く残酷に使役し、一本の巻タバコは十五銭づゝ毎日一週間の罰金を取らる故に、一本の巻タバコは金壱円五銭の罰金に処せられ、又各職工は監獄の罪人の如く番号を附せられ其働き場にも番号を附して、以て掛りの巡査が残酷に監督して使役す。奴隷に百倍の困難をなす。又彼の横浜の或る会社の如き悪逆なる雇主は抗撃せらるゝも、敢て不満足を抱かず。唯労働世界は其の激烈なる為めに其尻が期成会に来ぬよう注意せられんことをタノム。
『労働世界』第34号、1899(明治32)年4月15日付、《寄書》欄。復刻版349ページ。
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