(14) 乾燥バナナ小学生時代のおやつで、忘れがたいもののひとつに乾燥バナナがある。懐かしさから、あちこちのスーパーやデパートの食品売り場を探しまわるのだが、なぜか見つからない。あるのは、バナナ・チップ──バナナを薄く輪切りにして乾燥させたもの──だけである。バナナ・チップのカリカリした食感も悪くはない。だが、わが懐かしの〈乾燥バナナ〉とは、まったくの別物である。私が記憶している乾燥バナナは、皮をむいたバナナを丸のまま乾燥させたもので、一本一本、セロファンで包んであった。甘いもののない時代だったから、乾燥バナナの強い甘さとねっとりした食感がたまらなかった。シンガポールを「昭南島」と呼んでいた時代に、どこか南の島で作られ、日本に運び込まれたものであろう。ごく短期間出回っただけだった。食べた回数もたぶん、4、5回というところだった。だからよけいに懐かしく感ずるのかもしれない。
バナナといえば、ちょうどその頃、水兵として軍艦に乗っていた母の従兄弟が、南の島の土産だと、青いバナナを房ごと持ってきてくれた。100本をこえる大きな房で、歓声をあげて喜んだ。だが、そのままではガリガリと固く、とても食べられる代物ではなかった。その水兵の説明に、バナナは未熟な状態で輸入し、室(むろ)で完熟させるのだと聞かされた。そこで、毛布にくるんで押し入れに入れ、切り口に焼酎をかけたり、あれこれ試みたが、いっこうに黄色くならなかった。
さて口絵の乾燥バナナだが、これはこの「食の自分史」のために特別に製作したものである。天日に干して丸5日かかったが、出来は良くない。間で2日間、まったく陽の照らない時があったからかもしれない。その昔の乾燥バナナはもっと茶色に近いべっこう色だったと思うのだが、これは白っぽい。味もそれほど甘くはなく、ちょっとだけ青臭かった。やはり乾燥バナナは南の島で作るものなのだろう。猫の目のように変わる今の季節、それも東京辺りの太陽光では無理なのかもしれない。味も形も昔の記憶とはほど遠い。あるいは、口に入るものならなんでも嬉しかった飢えの時代の記憶だからか。
【追記】 |
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