『二 村 一 夫 著 作 集』 付録

高野房太郎より高野ます・同岩三郎宛書簡
      一八八七(明治二〇)年八月三日

   〔一八八七(明治二〇)年〕七月三十一日認
 八月三日便

不相変(あいかわらず)無事御休心被下度候(くだされたくそうろう) 六月三十日附
書面新聞正ニ入手致候
一 別紙二通御回送上願候(ねがいあげそうろう)
一 旧オークランド主人モ此度病気療養ノ為メ
一年間(ばか)リ桑港ヨリ南百里程有之候「サン、
ダエゴ」ト申ス処ヘ行カルル由ニ有之仝氏之子息
二人小生ト共ニ当地ヘ罷在候得共(まかりありそうらえども)過日(それ)ガ為メ
帰宅被致候(いたされそうろう) 乍併(しかしながら)当場ヲ支配スル人ハ旧主人之
弟故大ニ都合宜敷候
一 最早当地ヘハ五週間程滞在致居候シ居候
来月下旬ニハ桑港ヘ帰ルベキ都合有之候
一 当〔一字抹消〕米国〔二字挿入〕之事ニ就而者(ついては)万事熟考之上着手致
居候(ゆえ)小生之心事ニ就而者(ついては)決シテ御心配
無サレ間敷候 決シテ粗暴過激之事ヲナシテ
人ニ笑ハレル様ナルナル事ハ決不仕候(けっしてつかまつらずそうろう)
一 当地ヘ来リテヨリ実ニ非常之労働ヲ致居
ルナレドモ今日迄ニ更ニ病ナル者ニ(かか)ラズ(うた)タ相喜
居候 常ニ心気精々トシテ本日モ日曜日故午
前中ニ他之子供四五人ト共ニ近辺ノ山を渉
猟シBerryト申ス木之実(など)ヲヒロイ
帰リ候夕刻ヨリハ毎日小説之翻訳ヲナシ
毎夜必ズ十時ニ寝ニ就キ居候此頃ニテハ日本
ニ居リシ時の之如ク決シテ寝坊ニテハ無之候
一 時々show先ツ茶番ノ様ナ者当場内之
楽堂ニテ催有之候(これありそうろう) 一昨晩モ此茶番有之候故出掛候
一寸云ヘバ落話シ(おとしばなし)見タ様ナ者ニテ黒奴ノヲドリモ
有之終リニハSocial dance ト申シテ自由ニ
「ダンス」ヲ致候乍併私抔ハ指ヲクワヘテ見テ居ル方ニ
候幸ナルニハ当場ニ居ル人モ支那人ヲ(にく)ム之余り
其反動ハ日本人ヲ愛スル事ニテ大ニ仕合わニ候先
一寸シタ過リガアツテモ支那人ナラハ打擲(ちょうちゃく)デモクヘル処ヲ
Oh, right〔all right〕- Oh, right デ済マセテ呉レル様ナ者ニテ
好都合ナリ且頃日ハ凡テノ様子モ相分リ候故好都
合候何ニシロ困ルノハ多クハ無教養之人間ニテ眼ニハ
一丁字モナク言葉モ多クハBroken English ナルニハ
閉口之外ナク候
                   房太郎拝
母上様
岩三郎様


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