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《編集雑記》26 (2019年8月〜 )

「再論・〈労働者の声〉の筆者は誰か?」を発表

暑中お見舞い申し上げます。梅雨寒の日々が続きましたが、ようやく関東地方でも梅雨が明け、強い日射しが戻って来ました。
 さて、このたび、久しぶりにネット上ではなく、活字で論文を発表しました。『大原社会問題研究所雑誌』No.730(2019年8月号)に「再論・〈労働者の声〉の筆者は誰か?」を掲載したのです。内容的には、すでに本著作集に掲載済みの、大田秀昭氏との一連の論争を総括したもので、「労働者の声」の筆者は徳富蘇峰であることを論証しています。長年の謎に、説得的な結論を得ることが出来たのではないかと考えます。
 実は、論争の最中に投稿した論稿が、厳しい査読のすえ【研究ノート】なら掲載するという審査結果となりました。これは、査読者の判断が正しく、当然の結果でした。そこで論旨・結論とも見直し、書き改めて再投稿し、ようやく【論文】として掲載が認められた次第です。つい先ごろ、若い友人から、『大原社会問題研究所雑誌』に投稿したが、査読前の審査ではねられたという経験を知らされたばかりでした。私が大原研究所に勤務していた20年前とは、『大原社会問題研究所雑誌』の研究誌としての水準があがり、編集体制も格段に向上していることを、身をもって体験した次第です。来月末には、研究所サイトにPDFで公表されますから、どなたでも容易に読んでいただけるようになります。
 また、『大原社会問題研究所雑誌』の次号、731・732合併号には「大原社会問題研究所の100年」が掲載されます。こちらは、研究所の創立100周年の集いでの《記念講演》の記録を大幅に加筆訂正したものです。こちらも、いずれ研究所サイトにPDFで掲載されますので、ご一読いただければ幸いです。
《追補》『大原社会問題研究所雑誌』No.730(2019年8月号)がPDF公開され、「再論・労働者の声の筆者は誰か?」がオンラインで読めるようになりました。近日中にhtmlファイルでも読めるようにいたします。
【2019年7月29日掲載、7月31日補訂、9月28日追補】




森鴎外「舞姫」初出テキストの翻字

電子書籍ファイルのフォーマットのひとつであるEPUBのファイルを、生まれて初めて制作しました。といっても、自分でタグを打つといった作業はまったくせず、「一太郎2019」を使って原稿を制作し、そのままEPUBファイルとして出力しただけのことです。
 なぜ、こうした作業に取り組んだのかと言えば、森鴎外「舞姫」の初出である、『国民之友』第69号(明治23=1890年1月3日発兌)の附録の冒頭に掲載されたテキストを紹介したかったからです。実はこの《編集雑記》の第23号でもふれていますが、私は、旧制諏訪中学時代の友人・林尚孝氏の個人サイト《森鴎外と舞姫事件研究》の制作に関与しています。しかも、同サイト内に置かれた「鴎外研究関連リンク集」は私が作成したものなのです。この「森鴎外研究関連リンク集」の冒頭は「インターネット上の森鴎外作品」で、その中心は「舞姫」です。私が知る限り、ネット上で読むことができる「舞姫」は3点あります。うち2点は《青空文庫》版で、「旧字旧仮名」版と「新字旧仮名」版です。もうひとつは、『水沫集』に収められた「舞姫」です。
 『国民之友』に掲載された「舞姫」の初出テキストは、これら3点と、さまざまな点で違いがあります。いちばん目立つのは、初出テキストでは、文の終わりを示す句点(=〈。〉)がまったく用いられていないことです。読点(=〈、〉)は皆無ではありませんが、一般に流布しているテキストに比べると、ごく僅かです。そこで、私が所蔵している『国民之友』第6巻合冊本をスキャンしてpdfファイルを作成しました。ただ、第6巻は明治23年の前半に発行された第69号から86号までの18号分を合冊したものなので、スキャンするには厚みがあり過ぎ、どうしても「ノド」の部分が黒くなってしまい、全文を読むには適しません。そこで全文を翻字し、読みやすい形で提供することを考えたのです。そこで、わざわざ翻字するからには、出来るだけ原文に近づけようと、改行位置なども、原文と一致させるようにしました。ただ、これが思ったよりも難しい作業でした。それは、初出テキストでは「こ」と「と」を組み合わせて一文字とする〈組み文字〉が、頻繁に使われているため、すぐに改行位置が狂ってしまうのです。ちょっと驚いたのは、《一太郎2019》が、変体仮名やこうした組み文字を表記出来るようになっていた点でした。こうして、何とか翻字を終えましたが、これを誰でも簡単に読んでいただけるようにEPUBファイル一太郎のファイルを、アップロードしておきました。
 最初は、一般に利用しやすいように、pdfファイルにしようと試みましたが、旧字や変体仮名に対応していないため、これは諦めざるを得ませんでした。
【2019.9.4記】



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『二村一夫著作集』
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