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《編集雑記》14 (2006年1月〜6月)

季節のご挨拶

読者各位への季節のご挨拶



近況報告

 この2ヵ月ほど、『食の自分史』を1本書いただけで、あとはほとんど更新らしい更新もせずに過ぎてしまいました。『高野房太郎とその時代』完結に際しての「あとがき」や前掲の「季節のご挨拶」にも書きましたが、胃癌で入院していたのです。先月13日に手術を受け、胃の3分の2強を切除しました。残ったのは胃の入り口付近の3分の1弱です。ごく小さなものですが胆石があったため、胆嚢も摘出しました。こんなことになるまで全く知りませんでしたが、胃を切るとかなりの高率で胆石症や胆嚢炎になるので、胆石がある場合は胃と同時に胆嚢も切り取るのが標準的な治療法なのだそうです。お陰様で順調に回復し、先月末、術後2週間で退院しました。
  とはいえ、手術前後の絶食期間やその後の流動食生活で体力が落ち、それにともなっていささか気力も衰えて、ものを書く元気をなくしていた次第です。何しろ、これまで病気らしい病気をしたことがない「患者初心者」なので、突然襲ってきた病にどう対処すればよいのか、いまだに手探り状態です。身体は大人なのに胃だけが小児サイズになってしまったので、小さくなった胃の声、時には悲鳴に耳を傾け、朝から晩まで食べることに追われています。1食の分量が減った分を、食事の回数を増やすことで補うように指示されており、身近にクッキーや煎餅をおいて、たえず口を動かしています。太る心配をせずにモノが食べられるのですから、私のような〈食いしん坊〉には悪くはない状況の筈ですが、お腹が空かないので、美味しくモノが食べられません。世の中はなかなか儘にならないものです。
  これまで好んで食べていた海藻類やナッツなどは消化が悪いので控えなければならないなど、食習慣が大きく変わってしまいました。胃に関する限り別人になったようなものですから、この際『食の自分史』第二部「小胃時代」でも書き始めようかなどと、考えはじめています。
  とりあえずは、懸案の『足尾暴動の史的分析』第3章を掲載する作業をすすめて、頭のリハビリに努めようと思います。表組みが多く、かなり面倒なタグ付けをしなければならないので、頭の体操にはもってこいです。そのうちに、身体のリハビリを兼ねて「高野房太郎の旧跡探訪」も再開するつもりです。ご愛読のほどお願いいたします。

〔2006.2.28〕


難問解決──「機種依存文字」の表示方法──

 このところ、せっせと『足尾暴動の史的分析』の第3章のhtmlファイル制作に励んでいます。その過程で、長年、何とかならないものかと思い続けてきた「難問」の答を発見しました。「答を発見した」といっても、もちろん私自身で解決策を考え出したというわけではなく、これまで知らなかったやり方に気づかされたというだけのことですが。しかし、世の中には、同じような悩みをもっておられる方もいらっしゃるでしょうから、今回はこの難問の解決策をご紹介したいと思います。
  難問とは他でもありません、「機種依存文字」をWeb上で文字化けさせることなく表示させる方法です。ご承知のように、JIS第1水準、第2水準に含まれていない文字や記号は、htmlファイルでは文字化けしてしまいます。例えばローマ数字や丸数字、あるいは一部の人名漢字などです。
  ローマ数字の場合は、I、V、Xなど半角のローマ字を並べて使うことで処理してきました。しかしこれも「 I 」や「 II 」なら良いのですが、「 III 」や「 VII 」になると1角半、「 VIII 」は全角2文字分の幅をとるので、並べるとバランスが良くありません。 ①、②のような丸数字も便利な記号ですが、これも文字化けするので、1)、2)に変えて使って来ました。
  それでもローマ数字や丸数字なら、こうした代替策でなんとか間に合います。しかし人名の場合は、どうにもなりません。昔からの研究者仲間で、私の論文にもしばしば登場していただいている兵藤釗さんの名は、ワープロソフト──私が使っているのは《一太郎》ですが──なら、もう何年も前から(つとむ)ときちんと出るのですが、同じ文字をhtmlファイルの中で使うと、なぜか「fT」と、とんでもない化け方をします。仕方がないので、「兵藤つとむ」と記したり、兵藤〔○はJISの第2水準までに無い漢字、金偏にリットウ〕などと、割り注で説明を加えるといった苦肉の策を弄して来ました。同じように、畏友・松尾尊兊(たかよし)さんの「(よし)」の字もJIS第2水準にはなかった文字で、一時は自分で作字し、外字として登録して使っていました。その後、第3水準か第4水準かで追加されましたが、これもフォントが入っているワープロ・ソフトで使うことが出来ても、インターネットでは文字画像にしないかぎり表示できませんでした。しかし、見出し全体を文字画像にするケースならともかく、本文中に一文字だけ画像を使うのは、どうしてもサイズが合わず、見栄えも悪いし、さらに検索の対象から洩れてしまうという問題があります。
  ですから、Dynaフォントから、html文書内にフォントを埋め込むことで外字も表示できると謳った《ダイナフォント de ホームページ》が出た時には飛びつきました。しかし、このソフトが対応しているブラウザーはWindows版のIEだけでした。Macユーザーには読めないファイルを掲載するわけにも行かず、大枚をはたいたのに結局使わずじまい、詐欺にあったような気分になりました。

 今回、久し振りに『足尾暴動の史的分析』をhtml化しようとして、またまたこの問題にぶつかりました。鉱山関係の用語では、一般に使われない独特な文字が頻出します。例えば鉱石を意味する(はく)という字も、JISの第3,第4水準には入っていますからワープロ・ソフトなら使えます。しかしこれをhtmlファイルで使うと「fm」に化けてしまいます。そのほか、鉱滓を意味する(からみ)とか、銅製煉の過程で生成される中間製品である(かわ)なども、Web上では使えませんでした。

 この難問の解決策を教えてくれたのは、《ブラウザ・メールソフト別UTF-8対応状況》と題するサイトでした。ここで、Unicodeの数値文字を使えば、Shift_JISのファイル内でも「機種依存文字」を表示させることが出来る事実を知ったのです。やり方は簡単で、表示したい文字のUnicodeの16進法の数値を10進法の数値に変え、「&#」と「;」の間に挿入するだけです。たとえば、釗のUnicodeの数値は91D7です。この16進法の数値を10進法で表せば37735ですから、釗のように記せばよいのです。あるいはローマ数字の8のUnicodeの数値は2160、これを10進法で表せば8551です。したがってⅧと記せば、「 」と表示されます。これまで便宜的に使ってきた全角2文字分の「 VIII 」と比べ、ずっとスッキリしています。
  各文字のUnicodeの数値を探すにはどうすれば良いか、それを10進法の数値に変えるにはどうするかといったことは、かなり細かい説明が必要です。私がここでくどくど説明するより、直接数値文字参照による機種依存文字対応状況と題するファイルをご参照いただく方がずっと分かり易いでしょう〔これについては《編集雑記》の次回でふれました〕
  なお、こうした数値文字を使えば、完璧に「機種依存文字」を表示することができるかとなると、まだいくらか問題があるようです。たとえばMacの古いOSを使っている場合には、文字化けをおこすおそれがあるようです。今回の雑記をご覧になって、文字化けの箇所がある場合は、お使いのパソコンの機種とOS、それにブラウザーソフトの名をお教えいただければ幸いです。
〔2006.3.17〕

【追記】 横書きのファイルを縦書き表示する青空文庫用のソフト《Azur》では、この数値文字は文字化けすることを発見しました。どうやらUnicodeに対応していないようです。同じ縦書き表示ソフトでも《影鷹》なら表示されます。〔2006.3.18〕 


「機種依存文字」の表示方法(その2)

 前回、Web上で「機種依存文字」を表示させる方法についてふれました。その後、実際に、私が管理している『二村一夫著作集』と《社会政策学会公式サイト》で、カナ表記や割り注で済ませて来た問題箇所を数値文字に置き換える作業を続けています。その間に前回の説明にやや不正確な点があったことに気づきました。また「機種依存文字」を表示させる方法のひとつとして、Unicodeのホームページから直接フォント画像を取得するやり方があることも知りました。今回は、不正確だった点を補訂すると同時に、新たに学んだ方法について追加しておきたいと思います。
 「やや不正確」だったのは、次のように述べた箇所です。

 ここで、Unicodeの数値文字を使えば、Shift_JISのファイル内でも「機種依存文字」を表示させることが出来る事実を知ったのです。やり方は簡単で、表示したい文字のUnicodeの16進法の数値を10進法の数値に変え、「&#」と「;」の間に挿入するだけです。たとえば、釗のUnicodeの数値は91D7です。この16進法の数値を10進法で表せば37735ですから、釗のように記せばよいのです。

 不正確といっても、これで「機種依存文字」が表示されないわけではありません。ただ「Unicodeの16進法の数値を10進法に変換しなければならない」とした点は間違いでした。これは、私が数値文字について知ったサイトの記述を鵜呑みにしたからで、Unicodeの16進法の数値そのままを使っても差し支えなかったのです。Unicodeの16進法の4桁の数値の前にローマ字のXの半角小文字「x」を入れさえすれば、16進法の数値がそのまま使えるのです。上の例でいえば、表示したい文字のUnicodeの16進法の数値を「&#x」と「;」の間に挿入するだけです。釗のUnicodeの数値は91D7ですから、「釗」のように記せばよいわけです。つまり「釗」を表示するには、「釗」あるいは「釗」のどちらでも構わないというわけです。

 つぎに、実際に「数値文字参照」の作業を進める際に、大いに助けられたサイトを紹介しておきましょう。
  1) 「機種依存文字」を表示させる上でまず必要なことは、その文字のUnicodeの数値をどうやって探し出すかでしょう。この作業で役に立ったのは、坂口丈幸氏が作成された「《Unicode/CJK統合漢字》部首検索/画数検索/読み検索/コード検索」です。CJK統合漢字(CJK Unified Ideographs)とは、Unicodeに収められている漢字群で、中国 (China)、日本 (Japan)、韓国 (Korea) で使われている漢字を一括して登録したものです。
  実際に、私がこれを使って探した事例を見ておきましょう。社会政策学会奨励賞の受賞者であり、また埼玉大学が本部校だった時期の事務局担当者として、社会政策学会サイトに何回か登場される禹宗杬さんのお名前の最後の字は、JISの第3、第4水準にも入っていない文字です。木偏に元ですから、それほど複雑な字ではありませんが、日本語にはない漢字らしいのです。そこで「《Unicode/CJK統合漢字》部首検索/画数検索/読み検索/コード検索」の部首検索で、木部の4画を見たところすぐ見つかり、Unicodeの数値は「676C」であることが分かりました。そこで、杬 と記せば「杬」の字が出現するというわけです。

  2) こうして、次々と「機種依存文字」を埋めて行ったのですが、なかには、この方法ではどうしても見つからない漢字が出て来ました。たとえば、鉱脈を意味する「ヒ」という文字です。『足尾暴動の史的分析』の序章などで使っているのですが、金偏に通と書き「ひ」と読みます。部首検索の金偏を見ても、読み検索で「ひ」を見ても出て来ません。画数検索で19画を調べても出てきません。ことによるとUnicodeにもない文字かもしれないとあきらめかけたのですが、そこに救いのサイトが見つかりました。CHISE IDS 漢字検索です。「CHISE」はCHaracter Information Service Environmentの略で、「従来の文字コードによる文字処理システムの限界を乗り越えるべく開発された、コンピュータで文字を扱うための総合的環境」だとのことです。そこで、偏では多くなりすぎるので、旁の「通」で検索して見たところ、ちゃんとの文字が出てくるではありませんか。しかもこの検索結果の画面では、Your Browser の欄があり、この文字が私のブラウザーでは文字にならないことも分かります。私のパソコンに、このフォントが入っていないからでしょう。では、なぜ検索画面にこの文字が現れたかと言えば、この検索システムの実体はUnicode Home PageにあるUnihan Databaseで、Unicodeのホームページから直接フォントの画像を取得しているからでした。ローマ数字やJISの拡張文字のように、日本語ブラウザーのユーザーなら誰でももっているフォントの場合は、数値文字参照で済みますが、のような文字は、今はまだUnihan Databaseから画像文字を取得する方が確実かもしれません。前回ふれた画像文字がもつ問題は残りますが、一字一字自分で文字画像を作るよりは楽で、綺麗な文字が使えます。なお、CHISE IDS 漢字検索で探し当てた文字のリンク先を調べるには、ファイルのソースを見るほかなさそうです。

 3) 残念ながら、数値文字参照の場合、杬のように、他の文字よりちょっと小さかったり、字によっては位置がずれ隣の文字と重なったりすることがあります。またUnihan Databaseから取得する画像文字の場合は、いま見えているように、フォントの周囲に囲みの枠が出ますし、前後の文字と上下の位置が合わないといった問題がおきます。しかし、肝心な文字はなんとか出るのですから、Unicodeが普及して、これに対応するフォントが広がるまで、しばらくはこれで我慢するほかないでしょう。
〔2006.3.20〕


リンク集のこと

 ちょっとおこがましく聞こえるでしょうが、私は、リンク集の制作に関していえば、相当な経験をもっています。足かけ10年ほどで、少なく数えても5種のリンク集を作ってきました。規模が大きくなりすぎたため分割したファイルの総数でいえば、15ファイルになります。いずれも、私個人のサイトのためではなく、私自身がウエッブ・マスターとして制作に関与した法政大学大原社会問題研究所のサイト、あるいは創設以来現在まで9年あまり担当し続けている社会政策学会サイトのためです。いま現在関わっているリンク集だけでも、社会政策学会サイトのために2種3ファイル、大原社研用に3種6ファイルになります。近年は検索エンジンの精度が増し、欲しい情報は自分で検索して探し出す人が増えているので、ひと頃に比べるとリンク集の必要性は減っています。それでも、特色ある個性的なリンク集なら、いまだにその存在価値は大きなものがあると思います。
  私がいま最も力を入れているのは、設立以来10年近くWebmasterをつとめている社会政策学会サイトでの《社会政策学会リンク集》と《内外大会・研究会情報》です。とくに後者については、新しい情報を得る都度、すぐ更新することを心がけて来ました。おそらく社会科学系の研究会情報としてはもっとも詳しく、更新頻度も高いもののひとつだと思います。

 私が最初に作成したリンク集は、1997年1月に制作をはじめた《大原社研 社会・労働関係リンク集》です。労働組合や社会運動団体、さらには社会・労働問題研究者のホームページを網羅するリンク集でした。大原社研サイトの目玉にする意気込みで、定年退職するまでの2年余をついやして制作にあたりました。当時は、まだ労働組合や社会運動団体サイトの絶対数が少なかった上に、各サイトの内容もそれほど多くはなかったので、単なるリンク集でなく、サイトの内容を紹介するコメントも付しました。先行する試みもいくつかあったのですが、網羅的でコメントのついたリンク集である上に更新頻度も高かったので、短期間で労働組合関係リンク集の定番として評価されるようになりました。
  次に手がけたのは、《学術研究関連リンク集》、それに《書評欄オンライン版》《社会・労働問題関連 学術論文 E-TEXTリンク集》です。いずれも1999年2月に大原社会問題研究所の創立80周年記念事業として始めた「大原デジタルライブラリー」の一環として制作したものす。
  《学術研究関連リンク集》は、社会科学研究に役立つ日本語サイトを厳選し、短いコメントを付したものです。他のリンク集は、コメントをつけている場合でも、トップページを見ただけで書いたような簡単な紹介か、あるいは仲間ぼめ的な内容が多いのに飽きたらず、辛口コメントもまじえた評論的なリンク集を目指しました。
  《書評欄オンライン版》は、『大原社会問題研究所雑誌』に掲載された書評をhtmlファイルにして、すぐ読めるようにしたものでした。まだ雑誌全体がPDFで公開する前のことです。また《学術論文 E-TEXTリンク集》はインターネット上で公開されている研究論文をリストアップしたものです。もっとも大原社研の専門分野である労働研究や社会政策・社会福祉に関する文献だけですが。リンク集のほとんどがサイトのトップページにリンクしているのに対し、このリンク集は、個々のファイルに直接リンクさせています。同様な企てに、大阪大学大学院人間科学研究科社会学専攻のサイトに掲載されていた《社会学電子文献目録》がありましたが、いつの間にか消えてしまいました。院生が担当して作成されていたようでしたから、就職などにより後継者がいなくなってしまったのでしょう。

 ある分野に関するリンク集を作るのは、その気になれば比較的容易です。しかし、これを維持し続けるとなると、けっこう大変です。たえずリンク切れをチェックし、新たなサイトを追加しなければならないからです。《学術論文E-TEXTリンク集》も、制作当初はたえず追補し、最初は1ファイルだったものを、2000年5月に「労働編」「社会政策・社会福祉編」「ジェンダー編」に3分割、さらに同年11月には「社会学・社会問題編」も加えて、4分野の論文リンク集にしました。しかし、この2、3年は『高野房太郎とその時代』の執筆に追われたこともあり、社会政策学会のリンク集のほかは、ときどきリンク切れチェックをする程度で済ませて来ました。
  しかし『高野房太郎とその時代』もなんとか完結しましたし、体調もしだいに回復して来ましたので、先日来、OISR.ORGの各種リンク集のメンテナンスを再開しました。まず手を入れたのは《学術研究関連リンク集》で、構成を改めコメントも書き直しました。発足時は批判的なコメントばかり記していた国立国会図書館や国立情報学研究所〔旧学術情報センター〕も、ここ数年で大幅に改善されましたので、今回はだいぶ辛口コメントが減りました。
  一方、4分野の《E-TEXTリンク集》も、リンク切れをチェックし、若干構成を変えるなど、最低限の手直しを加えました。これからしばらくの間、新たな研究論文を加える努力を続けてみようと考えています。ご支援ご教授のほど、お願いいたします。
〔2006.4.30〕

【追記】
  この数日間、《E-textリンク集》、とりわけ「社会学・社会問題編」の改訂増補の作業をすすめました。「ジェンダー編」がこれにつぎ、ついで「社会政策・社会福祉編」の順に増補点数はさがります。「労働編」はまだこれからです。面目を一新した、いや実のところはまだ「面目を一新しつつある」程度ですが、E-textリンク集をお訪ねの上、ご意見、ご感想をお寄せください。〔2006.5.2〕



《学術論文E-TEXTリンク集》のこと

 この2週間ほど、法政大学大原社会問題研究所のサイトで公開している《学術論文 E-TEXTリンク集》のメンテナンスに力を入れて来ました。せっかく作ったリンク集ですから、何とか役立つかたちで維持したいと考えてのことです。前回も書きましたが、このリンク集は、1999年初めに研究所の創立80周年を記念して始めた「大原デジタルライブラリー」の一環として制作し始めたものです。デジタルライブラリーと銘打つからには、オンラインで読むことができる論文を集めなくてはと思ったからでした。E-TEXTとしては文学を中心とする《青空文庫》が有名ですが、学術論文は収録されていないので、社会・労働関係に限ってですが、研究論文の《青空文庫》を作ろうと考えたのでした。
  作成当初は、論文を公開するサイトそのものが少ない上に、掲載論文の数も限られていました。著書の宣伝や論文の要旨を紹介するサイトは少なくありませんでしたが、全文を公開するものはごく僅かでした。したがって、7年前《E-TEXTリンク集》の制作に着手したころは、各種検索エンジンを使って論文の全文を公開しているサイトを探索することにかなりの時間を費やしました。当然のことながら、研究論文であれば、見つかり次第リストアップしていました。
  しかし、この数年の間に、研究論文の公開をとりまく環境は一変したようです。もちろん論文を公開するサイトの数は増えていすし、〈加藤秀俊データベース〉のように、大量の論文を公開するサイトも現れました。ただ、当初予想したほどには、個人サイトでの全文公開は増えていません。私が所属している社会政策学会で、個人サイトを開設している会員は80人近くおられますが、論文全部を公開しているサイトはごく一部です。やはり、個人サイトでの論文公開では、研究業績として認められないからでしょう。
  しかし、今回のメンテナンスで、4種の《E-TEXTリンク集》に収録した論文の数は急増しました。5月11日現在《労働編》のリンク数は707に達しています。《社会学・社会問題編》も705、《社会保障・社会福祉編》は508、《ジェンダー編》は321、総計2241になります。もっとも、この中には各編に重複掲載しているものがありますから、実数では2000前後でしょう。とは言え、このリンク集を始めて1年半のころから見れば10倍近い数です。
  今回、このように掲載論文の数が増えたのは、研究機関の機関誌や大学紀要のオンライン化が進んだからです。自然科学系に比べると社会科学系の研究誌のオンライン公開は遅れていますが、それでも着実に数を増しています。とくに労働関係の場合は、主要専門誌である『日本労働研究雑誌』を出している労働政策研究・研修機構と、『大原社会問題研究所雑誌』を出している法政大学大原社会問題研究所が、デジタルデータの公開に積極的に取り組んでいることが大きいと思われます。そのほかでも、立命館大学の多くの学部が紀要のオンライン公開に踏み切っているほか、『関西学院大学社会学部紀要』をはじめ大学紀要のいくつかが全文公開を始めるようになりました。おそらく、この動きはさらに進むものと思われます。ただ、数十巻にのぼるバックナンバーのなかで、どのような論文がオンライン公開されているかを知るのは容易ではありません。その意味で、このような分野別のE-TEXTリンク集の役割は大きいでしょう。
〔2006.5.11記〕


「紀要公開サイト」の問題点

 この1ヵ月間、文字どおり朝から晩まで《研究論文リンク集》のメンテナンス作業を続けて来ました。大急ぎでつけ加えると、この《研究論文リンク集》というのは、大原社研のサイトに置いてある《社会・労働関係 学術論文E-TEXTリンク集》のことです。このたび《研究論文リンク集》と改名し、また【電子雑誌編】を分離独立させました。さらに、【社会学・社会問題編】は廃止するか、分野を限定して再編するか検討中で、新規採録は中止しました。
  名称変更の主な理由は、「E-TEXT」の看板と、リンク集の内実とが食い違ってきたからです。《学術論文E-TEXTリンク集》の制作を開始した1999年当初、インターネット上の論文の大部分は、デジタル・テキストを基盤とする「html」ファイルとして発表されていました。しかし、ここ2、3年で事態は大きく変わりました。公開される学術論文の圧倒的多数が画像データ、とりわけ「PDFファイル」に変わったからです。「学術論文E-TEXTリンク集」と銘打ちながら、しだいにPDFファイルへのリンクが増えています。これが《研究論文リンク集》と名称を変更した主な理由です。
  一方、当初は長い時間をかけて探していた論文探索の作業はきわめて容易になりました。論文公開の主体が、個人のホームページから、紀要等の発行所、つまり大学や研究所などの機関のサイトに移ったからです。今回、リンク集の増補作業をしている間に分かったことですが、かつては紀要の電子化といえば自然科学系が中心でしたが、この2,3年の間に数多くの社会科学・人文科学系の雑誌がWWW上で公開されつつあります。どうやら、この背景には、国立情報学研究所(NII)が「研究紀要電子化作業」を推進している事実があるものと推測されます。   国立情報学研究所による紀要や学会誌の電子化作業の成果は、CiNii(サイニイ)で見ることが出来ます。「CiNii」とは「NII論文情報ナビゲータ(Citation Information by NII)の略称だそうです。新しい企てに、ローマ字やカタカナ語を安易に使うのを、私は好みませんが、もはや抗すべくもないようです。「CiNii」は、ひとことで言えば、雑誌論文の巨大なデータベースです。内外の学術論文約910万件が収録されており、日本語の学術論文を探すことに限れば、世界最強のツールと見てよいでしょう。しかも、これを使うと、書誌事項を調べることが出来るだけでなく、直ちに本文まで読むことが出来るようになりつつあります。まだ、論文の本文を見ることが出来るのは210万件程度だそうですが、この数は急速に増えて行くものと予想されます。なお、CiNiiに収録されている誌名は、収録雑誌一覧で分かります。学会誌などには有料のものもありますが、紀要の大半は、一般利用者にも無料で公開されています。私自身「CiNii」を使い始めたばかりなので、このデータベースに関する意見は改めて述べることにします。

 しかし、この1ヵ月間、《研究論文リンク集》のために、各大学の紀要サイトを見て回り、使って来ました。今回は、これらの紀要サイトに関する感想を述べておこうと思います。率直に言うと、どのサイトも、あまり使いやすいとは言えませんでした。いずれも、何段階もの階層を辿らないと、論文を読むことができません。平均して4回か5回はマウスをクリックしないと、肝心の本文データに届かないのです。
  たとえば、一橋大学の場合は、「一橋大学からの情報発信」なるページから出発します。ここに大学が発行している約30タイトルほどの紀要名が出て来ます。ここから各学部等の紀要のファイルに行くのですが、問題はこの2層目です。ここでは、各雑誌の全貌が分からないのです。2層目は多数のファイルからなっているのです。つまり、1ファイルに5号から多くても10号分しか記録されていません。それも巻号と発行年月しかわかりません。しかも、この2層目を構成する他のファイルの内容が明示されていません。要するに、巻号も年次もない、ただの数字が並んでいるだけなのです。あらかじめ、自分が探している論文の巻号を調べておいても、その号がどのファイルにあるのか見当もつかないのです。
  『一橋論叢』のように長期間にわたり、1年間に6号も発行されている雑誌だと、なんとこの2層目は、76ものファイルに分かれています。自分が探している号が、1番から76番のどのファイルにあるのか、一発で探し出せたら「ラッキー!!」というものです。もちろん創刊号や最新号なら簡単に推定できますが、その間のものになると、まるで運試しのゲームのようなものです。ここでクイズです。「『一橋論叢』第100巻第6号は何番目のファイルにあるでしょうか? 1回でピタリと当てた方がいらっしゃれば景品を差し上げます。」と言いたくなる代物です。いくつか試して、この辺だろうと探りをつけてクリックしても「外れ」になることが多いのです。何回か「外れ」を繰り返した末ようやく当該の号を探し当てても、そこでは巻号と年次しか分からず、そこにある「この下のカテゴリーへ」のナビゲーション・マークをクリックして、ようやく論文名が出てくる仕組みです。しかもそこでもまだ、この論文について本文データがあるのかどうかは分かりません。それどころか、論文の筆者を知るのでさえ、もう1回クリックしなければならないのです。自分が読みたい論文をようやく探し当てても、そこに【内容へのリンク】という表示がなければ、本文を読むことは出来ません。入力作業の遅れや、著作権処理の関係などで、本文データがある論文はまだ一部なのです。そのことは仕方がないと思いますが、せめて本文があるのは、何巻なのかあらかじめ明記したり、さらに本文データの有無は、論文名が出た段階で分かるようにしておいて欲しいと思います。
  もっとも、このデータベースには「キーワード検索」が出来るようになっていますから、こちらを利用すれば、あちこち彷徨い歩く必要はないと反論されると思います。しかし、どうやらデータベースのサーバーが非力らしく、検索に時間がかかりすぎます。また、ようやく論文にたどり着き、最後の【内容へのリンク】をクリックしても、本文が出て来るのに、これまた時間がかかるのです。紀要を無料で公開してくださる労は多としますが、せめてもう少し利用者の使いやすさを考えたナビゲーションを考えて欲しいものです。おそらく今はまだ、テスト段階なのでしょう。今後改善されることに期待したいと思います。
  このほか、いくつかのサイトで、データがなぜかページ単位で表示されるものがありました。「次へ」とか「next」をクリックしないと次のページが出てきませんから、ひとつの論文を読んだり、ダウンロードするのに不便です。

  一方、全体的に使いやすく出来ていると思ったのは『立命館経済学』のサイトです。総目次、論文検索、キーワード検索と、3つの通路が用意されており、しかも創刊号からすべての論文が公開されています。立命館大学は、学部単位で紀要を公開しており、それぞれ個性的なナビゲーションです。一橋大学や同志社大学、あるいは大阪市立大学のように、大学全体の紀要をひとつのフォーマットで処理しているものが使いにくく、学部単位で個性的な立命館大学が全体に使いやすいというのは、なぜなのでしょうか。どうも、大学全体を一括して公開するのに関与している業者がいて、それが利用者には使いにくいソフトを提供しているのではないかと勘ぐりたくなります。もちろん、これは勘ぐりにすぎませんが。
〔2006.5.30記、6.2改訂〕



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法政大学大原社研                  社会政策学会



 高野房太郎研究            比較労働史研究            鉱業労働史研究


  史料研究            大原研究所をめぐって            雑文集   



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Written and Edited by
NIMURA, Kazuo

『二村一夫著作集』
The Writings of Kazuo Nimura
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