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またまたご無沙汰のお詫びから始めざるをえませんが、今回は、昨年8月に岩波書店から刊行された、アンドルー・ゴードン著・二村一夫訳の『日本労使関係史 1853-2010』に対する書評を、まとめて紹介しておきたいと思います。おかげさまで同書は、8000円もする高価な学術書にもかかわらず、予想以上に売れ行き好調のようです。昨年11月に第2刷が発行されたのに続いて、来月には第3刷が出る予定とのことです。それというのも、ここでご紹介する書評によるところ大で、この機会に厚く御礼申し上げたいと思います。
書評としてもっとも早く発表されたのは、『日本経済新聞』の2012年10月7日付朝刊の水野裕司同紙論説副委員長によるものでした。読書欄の冒頭を飾る《この一冊》として取り上げてくださり、「日本の中間層がどのように形づくられてきたかを浮かび上がらせた労作」と好意的な評価をよせられました。
続いて、『大原社会問題研究所雑誌』No.650(2012年11月25日発行の12月号)に、同研究所兼任研究員の金子良事氏の書評が掲載され、12月には、同研究所のサイトで公開されました。なお、この書評に対しては、濱口桂一郎氏が、《hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)》で
「金子良事さんのゴードン『日本労使関係史』書評について」と題してコメントを加えられ、金子さんがこれに対して「メンバーシップ論から企業別組合を説くのには屈せない」と題する反論を、ご自身のブログ《社会政策・労働問題研究の歴史分析、メモ帳》に掲載されています。
また熊沢誠さんは、ご自身の個人サイト《労働研究50年、熊沢誠 語る》の一部である「読書ノートから ─ その18 2012年冬」において、『日本労使関係史 1853〜2010』の達成と題して本書を高く評価され、それと同時に「もう少し立ち入ってほしかったいくつかの点」についても指摘されています。
さらに教育文化協会のサイトにある《本と資料の紹介コーナー》では、「2012年12月の紹介本」の1冊として鈴木玲さん(法政大学大原社会問題研究所教授)の書評が掲載されています。
最後は、リクルート・エイジェントの機関誌『HRmics』が、 「人事必読本レビュー その1」としてこの本をとりあげてくださいました。執筆者は、同誌の副編集長・荻野進介です。研究者ではない一般読者へのお勧めは、この荻野氏のレビューと熊沢誠氏の「読書ノート」でしょう。〔2013年4月16日記〕
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「何を今ごろ」と言われそうですが、2013年7月23日に、Andrew Gordon, Fabricating Consumers: The Sewing Machine in Modern Japan, (University of California Press, 2011)の日本語版が出ました。アンドルー・ゴードン著 大島かおり訳 『ミシンと日本の近代 ─ 消費者の創出』(みすず書房刊)です。訳書の書名は、原著のサブ・タイトルを主タイトルに、主タイトルをサブ・タイトルにした形です。このたび新聞書評が出そろいましたので、遅ればせながらここで紹介しておきたいと思います。
この本は、日本の労働史を研究してきた著者が、消費者の歴史、ジェンダー史という新たな分野に挑戦した最初の作品です。とはいえ、円熟の境地に達した歴史家が、このテーマで研究を始めてから10年以上かけて完成させた作品ですから年季は入っています。タイミング良く〔あえて言えば英語版の完成がもう1、2年早ければもっと良かったのですが〕、NHKの朝ドラ《カーネーション》が放映されたこともあり、多くの読者を得ることでしょう。欲をいえば、このような学術書のスタイルではなく、同じ内容を、もう少し一般読者向けの本として執筆されていたら、〔あるいは日本語版を、原文に忠実であるより、読みやすさを優先させた〈超訳〉にしていたなら〕この研究の凄さを、もっと多くの人に理解させることが出来たのにと、思わないではありません。
しかしテーマがテーマだけに、次のように4大新聞各紙の書評欄で取り上げられ、各書評子から高い評価を得ています。掲載順に並べてみます。クリックしていただければ、いずれもオンラインで本文を読むことが出来ます。
この他にも、本が出てから1週間後の7月29日に発売された『エコノミスト』2013年8月6日号(第91巻第34号 通巻4299号)にも「話題の本」として取り上げられたようなのですが、残念ながらこれはオンラインでは読めません(G-Searcch から、pdfファイルで購入することは可能、税抜き100円)。また出版社サイトの情報によれば、『週刊読書人』8月30日(岩本真一・大阪経済大学日本経済史研究所研究員評)、『信濃毎日』9月8日、『福井新聞』9月8日、『しんぶん赤旗』9月15日(小泉和子・昭和のくらし博物館館長評)、『出版ニュース』10月上旬号、『東京人』11月号(平松洋子評)にも書評や紹介が掲載されたとのことですが、本文をインターネット上で発見することは出来ませんでした。
ところで、邦訳本だけでなく、原著の書評も、法政大学大原社会問題研究所の『大原社会問題研究所雑誌』(654号、2013年4月)に掲載されており、pdfファイルで読むことが出来ます。
鈴木淳・東京大学教授書評 Andrew Gordon, Fabricating Consumers: The Sewing Machine in Modern Japan です。
また、ブログなどでも話題になっています。目についた中で、ひとつだけ紹介しておきましょう。だいだらぼっち(木村剛久氏)のブログ《海神日和》です。書評というだけでなく、かなり詳しい内容紹介ですから、これを読むだけで、本書の大筋はつかめます。連載で4回にわたって掲載されていますが、ブログなので逆順です。つまり最初を読むには、下に行かないとなりません。読者の便宜のために各回へのリンクを張っておきます。
(1)9月11日執筆分、(2)9月12日執筆分、(3)9月13日執筆分、(4)9月16日執筆分。
インターネットサーフィンで得た「おまけ」の情報をもうひとつ。この本の刊行を記念して、7月31日に著者のトークショーが、MARUZEN & ジュンク堂書店渋谷店で開かれたようです。その時のレジュメ「ミシン・女性・戦争・消費:モノで見た日本の近代」が出版社のサイトに残っていました。いちおうhtmlでも読めますが、読みやすいのは、pdfファイルです。A41枚足らずの短いもので、著者がこのテーマを発見したきっかけを語った、「なぜミシンなのか?」と、「発見したこと、重要な点」、という著者から見ての本書のポイントが記されています。
〔2013.10.30記、11.1追記〕