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《編集雑記》11 (2004年7月〜12月)

 

国会図書館サイトの大変貌

 一昨年11月、この《編集雑記》で国会図書館の変貌と題して国会図書館サイトの改革について紹介しました。また、昨年8月には、電子図書館と著作権問題──国会図書館の著作者公開調査に寄せてを執筆し、《近代デジタルライブラリー》の著作者公開調査に対して批判的なコメントを書いています。
  その続きとして、最近の国立国会図書館サイトのめざましい充実ぶりについて、お知らせしたいと思います。すでにお気づきの方もいらっしゃると思いますが、この2ヵ月ほどの間に下記のような変化が起きています。

 まずは、明治期刊行図書の著作権者の第2回の公開調査について見てみましょう。
  今回の公開調査が前回と大きく違うのは、探索対象である著作権者約1500人の一覧表が掲載されていることです。この点は、私が電子図書館と著作権問題──国会図書館の著作者公開調査に寄せてで批判した論点を、結果的に受け入れたものとなっており、データベースの検索画面で探すしかなかった前回より、分かりやすくなっています。一人でも多くの方が、これの一覧表をご覧になって、周辺に対象者がいらっしゃったら、これを知らせるようにしていただければ、と思います。またこの1年間で、調査もかなり進んでいるようで、 探索対象者の数は大幅に減っています。また、私でも知っている人物の名がいくらか残ってはいますが、ほとんどの方について、没年は判明していました。どうやら今回の著作権者調査の重点のひとつは、著作権保護期間が残っている方について、ご遺族など著作権継承者を探すことを目指しているようです。この1年間でこれだけに絞り込まれた担当者のご苦労に敬意を表したいと思います。
  こうした著作権者調査の成果として、今回新たに約4,100冊の図書が「近代デジタルライブラリー」に追加されました。その結果、ここで直接読むことが出来る本の冊数は約54,200冊にもなりました。さらに、先月公表された「国立国会図書館ビジョン2004」では、明治期刊行図書のすべてを来年度中に掲載するという目標を掲げています。これが達成されれば、現在の3倍の規模、つまり約16万冊の明治期刊行図書がすべてオンラインで利用可能になるわけです。
  電子図書館には、このほか 「貴重書画像データベース」として重要文化財や彩色資料等の画像データ約33,000コマが閲覧できるようになっています。
  あえて注文を出すとすれば、国会図書館は、こうした新しい企画をもっと積極的に宣伝するようにして欲しいと思います。せっかく月2回刊のメールマガジン『カレントアウェアネス−E』を出しているのですから、そのトップにでも、こうした国会図書館サイトの新たな動きを紹介する欄を設けたらいかがでしょうか。『カレントアウェアネス-E』は高い質のジャーナルですが、なぜか海外の図書館界の紹介が主で、自舘の動向や方針についてまったく触れていないのは理解に苦しみます。
  また最後は注文になってしまいましたが、日本語サイトのなかで最も質の高い、内容の充実した発信を行っている機関だけに、さらなる発展を期待してのことですので、お許しください。
〔2004.7.27〕


 

『足尾暴動の史的分析』掲載の中間報告

 昨年9月25日、『足尾暴動の史的分析──鉱山労働者の社会史』の掲載開始を予告しました。「はじめに」をその日のうちに載せ、「序章 暴動の舞台足尾銅山」と「第1章 足尾暴動の主体的条件──〈原子化された労働者説〉批判」は10月上旬に掲載を終えるといった具合で、すべりだしは順調でした。しかし、「第2章 飯場制度の史的分析」になると、前半を今年の2月に掲載したきりで、その後半年近く中断してしまいました。高野房太郎の没後100年の集いの準備や『高野房太郎とその時代』の執筆に追われていたからでもありますが、数表や図表が多くなり、それを読みやすい形で表示する作業が面倒なので、どうにも気が乗らなかったのでした。

 しかし先日、まもなく掲載開始から1年が近づいていることに気づき、大あわてで「第2章」の残りと「第2章補論」2本、それに「終章」を掲載いたしました。「補論」のひとつは「飯場頭の出自と労働者募集圏」、もう一本は「足尾銅山における囚人労働」です。「終章」では総括と今後の研究課題を論じています。本を買うと、まず最初と最後を眺めるくせがあるのは私だけではないと思うので、第3章より前に「終章」を載せた次第です。
  残るのは第3章「足尾銅山における労働条件の史的分析」だけですが、これが難物です。活字版で140ページと全体の半ば近い分量がある上に、表も42もあり、これはちょっとすぐには手をつける気にならずにいます。申し訳ありませんが、しばらくご猶予くださるようお願いいたします。
〔2004.9.8〕


 

刊行開始7周年──縦書き表示に挑戦

 今週末で、本サイト開設満7周年になります。毎年、この時期には、なにか新しい試みをするよう心がけて来ました。これまではデザインを変えたり、著作集としての内容構成を変えたりといったことが主でしたが、今回は思い立って、かねてから考えていた縦書き表示に挑戦することにしました。
  日本語は本来縦書きを基本とする、だから縦書きが良いと考えているわけではありません。私はどちらかといえば「横書き派」です。数字やローマ字が混在しても自然に読めること、それに活字版で注を入れる場合、横書きなら〈脚注〉として本文と同一ページに入れることが出来る点も、横書きを愛用してきた理由のひとつです。書いている文章が、おもに学術論文だからということもあるのでしょう。
  その横書き派の私でも、インターネットサーフィンでは、「横書き」は好きになれませんでした。モニターのサイズが書物に比べ著しく横長で、横書きでは1行の文字数が多くなりすぎて、読みづらいのです。またスタイルシートを使っていないサイトの多くは、行間が狭すぎ、いっそう読みにくいものになっています。そうした事態を改善するため、私のサイトでは、左右に余白を大きくとり、行間をあけるなどの工夫をして来ました。もし、これが「縦書き」で、しかも「横書き」と変わらない多様なレイアウトが可能になれば良いのにと、ずっと考えて来ました。
  そう言いながら、インターネットでの縦書き発信については、不勉強でした。最近になって青空文庫の専用ブラウザーともいうべき《azur》(=AoZoraUniqueReader) や《影鷹》のような、縦書き表示専用ブラウザーを試み、その読みやすさを実感したので、なんとか縦書き発信を試みようと考えたのです。
  ご承知のように、日本語サイトのなかには、少数ではありましたが、早くから縦書サイトは存在していました。ただその多くは、横書きの文字列を縦書き表示用に組み替え、<pre>タグや表組みを使うという、いわば「裏技」を使うのもでした。しかし、この方法だと、テキストそのものは意味不明の文字列になってしまい、全文検索なども出来ません。画像化する方法も一部で使われて来ましたが、短歌や俳句ならまだしも、私のサイトのように長い文章が主体だと、ファイルが大きくなりすぎて、実用的ではありません。このほかPDFファイルにする、あるいはJavaアプレットを使うことも検討して見ました。しかし最終的にはスタイルシートを使っての縦書き表示が、もっとも適当だと考えるにいたりました。問題は、縦書き表示に対応しているブラウザーはInternet Explorerだけ、それもVer 5.5以降しかないことです。
  これまで、私はhtmlファイルを制作する際は、どのようなブラウザーにも対応しうることを原則として来ました。今回はこの原則を破ることになりますが、これはいたしかたないことと考えています。W3Cの「テキストの進行方向」に関する勧告(まだ候補の段階で最終勧告ではないようですが)を受け入れて、縦書き表示が可能なブラウザーは、今はまだIEVer 5.5以降しかないからです。しかし、日本語ブラウザーなら、いずれは縦書き表示にも対応せざるをえないでしょう。それにInternet Explorer のシェアの大きさ、Ver5.5が出たのが2000年7月とすでに4年余が経過したことを考えると、現段階でも、縦書き表示ファイルも、きっと多くの方に読んでいただけるに違いないと考えた次第です。
  私の勉強不足もあり、ブラウザー側の対応の問題もあって、今の段階では算用数字を用いた数表を、縦書きテキストと混在させるのは、かなり手間がかかりそうなのであきらめました。差しあたりは、文章だけのファイルを選んで、横書きだけでなく縦書き表示版を掲載することにしました。なお、今回、スタイルシートを使っての縦書きを試みるに当たっては、K. Suzuki 氏の縦ルビ-縦書きルビ振り実験サイトに多くを学びました。このサイトを発見しなければ、今回の企てはずっと遅れたことでしょう。有難く、厚く御礼申し上げます。
〔2004.9.21〕



刊行開始2周年  この1年──刊行開始3周年に当たって

刊行開始5周年   刊行開始6周年


 

ブラウザーあれこれ

 先ごろ、モジラ財団から新しいブラウザーFirefox Ver.1が公開され、ほとんど同時に日本語版も公開されました。まだ充分に使いこなしてはいませんが、なかなか良くできたブラウザーです。なかでも、毎日のように訪れる「お気に入りサイト」をブックマークで同一フォールダーに入れておき、[タブで開く] を選択すると、1回のクリックで全サイトを一気に読み込んでくれる機能は爽快です。
  ただ日本語サイトの制作者としては、決定的な点で不満があります。何よりも、スタイルシートの「writing-mode属性」をサポートしていないことです。つまり、縦書き表示を狙って制作したファイルが、Firefoxでは横書きで表示されてしまうのです。デフォールトでルビが使えないのも不便です。拡張機能を使うと利用可能になるそうですが、一般の利用者がそこまですることはないでしょう。ルビも縦書き表示もインターネット・エクスプローラーでは、4、5年も前から対応していることです。前回の雑記でも書きましたが、横長のモニター画面で横書きの文書を読むのはかなり苦痛です。モニター画面で読む場合だと、縦書きの方がずっと快適です。にも関わらず、縦書きサイトがあまり普及しないのは、ブラウザーの一部、というよりIEしかこれに対応していないからでしょう。
  ご承知の方も多いと思いますが、1990年代中頃までは、ウエッブ・ブラウザーの主流は、ネットスケープ・ナビゲーター(NN)でした。最盛期には90%前後のシェアを誇っていました。マイクロソフトのインターネット・エクスプローラー(IE)はまだ出たばかりで、それほど魅力的なソフトではありませんでした。しかし、その後マイクロソフトがさまざまな手口を使ってNN潰しを進めたことで、両者の勢力比は逆転してしまいました。その推移はCSJWWWブラウザシェア調査を見るとよく分かります。

 私も数年前まではその一人でしたが、初期からのインターネット・ユーザーは、ずっとネスケに愛着を抱き、インターネット・エクスプローラーを使おうとはしませんでした。慣れ親しんだソフトだということもありますが、マイクロソフトのシェア拡大戦略の余りにあくどいやり口に対する反感が強かったからです。ワープロソフトでは、私はいまだにWordは使わず、一太郎を使っています。しかしブラウザーについては若干事情が異なります。いつの間にか標準のブラウザーにIEを使うようになってしまったのです。ただし現在は、IEそのものより、表示エンジンにIEを用いているタブ切り替え型WebブラウザーSleipnir(スレイプニル) を愛用していますが。
  それというのも、ネスケを愛用していた時期でも、サイト制作者としては表示確認のために各種ブラウザーを試しています。当然のことながら、Operaのような新しいソフトを含め、たえずブラウザーの比較をしています。Operaは非英語圏で愛用されているようですが、有料ソフトで、無料版は広告付きになるので、ちょっと使う気にはなりませんでした。一方、IEの方はVer.4頃からかなり洗練され、とくにスタイルシートへの対応の点で、明らかにNNを追い抜きました。また、NNはタグの解釈が厳密で、表組みのタグにちょっとした間違いがあると、全く表示してくれないなどのトラブルがしばしば起きました。IEの方がずっと柔軟で使いやすくなって来たのでした。とくにVer.5からはルビ、つまり漢字へのカナ振りが出来るようになりました。この機能は、私のように明治期の史料を引用することがある者にとっては、大きなメリットです。
  さらに大きな違いが生じたのはIEがVer.5.5以降、縦書き表示に対応したことでした。 これは、IEがいち早くW3Cの「勧告候補」にある「writing-mode属性」をサポートすることで、裏技を使わないでも、縦書きレイアウトを実現してくれたのです。日本語サイトの制作者としては、これは一大事件といってよいことでした。W3Cが早くこれを「勧告」に格上げし、IE以外のブラウザー、とりわけモジラ系のソフトがこれに対応してくれるようになることを願っています。
〔2004.12.11〕



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Written and Edited by
NIMURA, Kazuo

『二村一夫著作集』
The Writings of Kazuo Nimura
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